盗撮事件で示談が成立しなければ、起訴され前科がつく可能性が高まります。職場や学校にも知られ、以後の社会生活に大きな悪影響を与えます。
逮捕から72時間以内の対応が、その後の運命を左右する分岐点です。勾留が決定すると面会が制限され、被害者との交渉機会を失います。弁護士による早期介入が、示談成立への唯一の道といえるでしょう。
本記事では、示談しない場合に待ち受ける具体的な流れ、逮捕直後に家族が取るべき行動、弁護士費用の相場まで解説しています。適切な初動対応を知ることで、社会復帰への可能性を残すこともできるでしょう。
当事務所では、初回無料で法律相談を受け付けております。お気軽にお電話またはLINEにてお問い合わせください。
盗撮で示談しないと起訴される可能性が高まる

盗撮事件において示談が成立しているかどうかは、検察官の起訴・不起訴判断に大きな影響を与えます。示談の有無により、事件の結末が大きく変わる可能性があるのです。
検察官は、被害者の処罰感情を重視して起訴・不起訴を決定します。示談が成立していれば、被害者が加害者を許し、事件を解決する意思を示したと判断されるため、不起訴処分となる可能性が高まるでしょう。
一方、示談が成立していない場合、検察官は起訴を選択する可能性が相対的に高まります。被害者の処罰感情が強いままであると判断され、刑事処分が必要だと考えられるためです。
不起訴率は示談の有無で大きく変わる
示談の有無によって不起訴率には大きな差が生じる傾向があります。2023年の検察統計によれば、盗撮を含む地方公共団体条例(公安条例及び青少年保護育成条例以外の条例)の不起訴率は約33.2%とされています。
参照:2023年検察統計「被疑事件の受理及び処理状況 23-00-08 罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員」
検察官が不起訴処分を決定する際には、犯罪事実の立証可能性に加えて、被害者との示談成立の有無、被疑者の反省状況、余罪の有無などを総合的に考慮します。特に初犯の場合、示談が成立していれば不起訴処分となる可能性がかなり高くなるとされています。
示談が情状として評価される理由は、被害者の精神的苦痛に対する賠償が行われ、当事者間で和解が成立したと認められるからです。検察官はこの点を重視し、起訴猶予という形で不起訴処分とする判断を下すことがあります。
起訴されると前科がつく
起訴後に有罪判決が確定すると、前科がつくことになります。前科とは有罪判決を受けた経歴のことを指し、罰金刑や執行猶予付きの判決であっても前科として記録されます。
前科がつくと、就職や転職の際に履歴書の賞罰欄への記載が必要となる場合があり、採用選考において不利に働く可能性があります。また、一定の資格取得が制限されたり、パスポートの発給に影響が出たりすることも考えられるでしょう。
執行猶予付き判決であっても前科はつきます。執行猶予とは刑の執行を猶予する制度であり、無罪になったわけではありません。執行猶予期間を無事に経過すれば刑の言渡しの効力は失われますが、前科の記録自体は残り続けます。
示談しない場合に想定される5つのリスク
示談が成立しない場合、起訴リスクだけでなく、身柄拘束の長期化、社会的信用の失墜、雇用関係への影響、人間関係の悪化、民事責任の残存など、多岐にわたる不利益が生じる可能性があります。
これらのリスクは相互に関連しており、逮捕されると報道され、報道されると解雇されるといった連鎖的な影響が発生することもあるでしょう。示談未成立時にどのようなリスクがあるのかを正確に理解することが大切です。
各リスクの程度は個別の事案によって異なりますので、具体的な状況については弁護士にご相談ください。
逮捕後も身柄拘束が長引く
逮捕から勾留、勾留延長までの期間は、示談の成立状況によって大きく変わる可能性があります。逮捕後、検察官に送致されると、検察官は24時間以内に勾留請求するかどうかを判断します。
示談が未成立の場合、証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれがあると判断され、身柄拘束が継続される傾向があります。勾留が決定されると原則10日間、延長されるとさらに最長10日間、合計で最長23日間の身柄拘束を受ける可能性があるのです。
一方、示談が成立すれば、勾留請求がされなかったり、勾留中であっても釈放されたりするケースが多くあります。身柄拘束が長期化すると、仕事を休まざるを得なくなり、会社に知られるリスクも高まるでしょう。
実名報道で社会的信用を失う
起訴された場合、メディアによって実名報道されるおそれがあります。報道されるかどうかの明確な基準はありませんが、一般的に公務員や大企業の役職員、医師、教師など社会的責任が重い立場の人は、実名報道される可能性が高まる傾向があります。
実名報道されるタイミングは、逮捕翌日や検察庁への送致時が多いとされています。警察が記者クラブに事件情報を提供し、報道機関がそれを基に報道するかどうかを判断します。逮捕されずに在宅事件となった場合は、実名報道のリスクは低くなる傾向があります。
実名報道されると、インターネット上に情報が残り続け、5年10年と影響を受ける可能性があります。家族や友人、勤務先にも知られることになり、社会的信用を大きく失う結果となりかねません。
報道の判断は最終的に報道機関が行うものですが、リスクを避ける意味合いでも、早期の示談解決を目指すのが重要です。
勤務先から懲戒解雇される恐れ
犯罪行為は多くの企業の就業規則において懲戒事由に該当します。逮捕や起訴の事実が会社に知られた場合、懲戒処分の対象となる可能性が高くなります。
逮捕されて身柄拘束が長期化すると、無断欠勤の状態が続き、会社に事情を説明せざるを得なくなるでしょう。また、実名報道された場合も、会社が事件を知ることになります。
懲戒処分の内容は企業の判断によりますが、有罪判決が確定した場合には、会社の信用を失墜させたとして懲戒解雇される可能性が高まります。示談が成立していれば、処分軽減の情状となることもありますが、これは企業ごとの判断によるため一概には言えません。
雇用契約や就業規則の内容は企業ごとに異なりますので、具体的な対応については個別にご検討ください。
家族や周囲の人間関係が壊れる
刑事事件化により、家族は精神的・社会的に大きな影響を受けます。逮捕されると家族も突然連絡が取れなくなり、強い不安を抱くことになるでしょう。
事件が長期化すれば、家族も周囲からの視線に悩まされたり、経済的な負担を強いられたりする可能性があります。実名報道された場合は、家族も「犯罪者の家族」として見られることになりかねません。
示談による早期解決は、家族への負担を最小限に抑える第一歩となりえます。事件を早期に終結させることで、家族関係の修復に集中できる環境を整えることができるでしょう。
精神的影響には個人差が大きいですが、やはり考えられるリスクを避ける行動が必要でしょう。
民事裁判で慰謝料を請求される
盗撮は刑事事件であると同時に、民法上の不法行為に該当します。刑事事件とは別に、被害者から民事で損害賠償を請求される可能性があるのです。
示談が成立していない場合、刑事処分を受けた後も、被害者が民事訴訟を提起して慰謝料を請求してくる可能性が残ります。民事裁判では、訴状の作成、裁判所への出廷、証拠の提出など、時間的・精神的な負担が生じるでしょう。
盗撮の慰謝料相場は、一般的に10万円から50万円程度とされていますが、事案の内容や被害の程度によって異なります。民事裁判を起こす場合、弁護士費用も別途必要となることが多いでしょう。
示談を成立させ、示談書に「今後一切の民事上の請求をしない」という清算条項を入れておけば、刑事と民事を同時に解決することができます。
逮捕後72時間以内が勝負の理由は?

盗撮事件で逮捕された場合、その後の運命を左右する極めて重要な期間が、逮捕後72時間です 。
警察は逮捕から48時間以内に事件を検察官に送致するかを判断し、送致を受けた検察官は24時間以内に、被疑者の身柄を拘束し続ける「勾留」を請求するかを判断しなければなりません 。この合計72時間という厳格な時間制限の中で、今後の方向性が決まるのです 。
この期間内に弁護士が迅速に活動を開始することが重要な理由は、以下の通りです。
- 勾留の阻止と早期釈放
-
弁護士が早期に示談交渉に着手し、被害者との和解が進む見込みを示すことで、検察官や裁判官が「逃亡や証拠隠滅のおそれはない」と判断し、勾留を阻止できる可能性が高まります 。勾留されなければ早期に釈放され、会社や学校に知られるリスクを大幅に軽減できます 。
- 被害者感情への配慮
-
時間が経過すると被害者の処罰感情が強まり、示談交渉が難しくなる傾向があります 。事件発生後、できるだけ早く弁護士を通じて謝罪の意を伝えることが、円満な解決への第一歩です 。
- 刑事事件化の回避
-
まだ警察に被害届が出される前など、逮捕前の段階で示談が成立すれば、事件が公になることなく、刑事事件化そのものを回避できる可能性もあります 。
今すぐ取るべき行動は弁護士への相談
盗撮事件が発覚した場合、最優先で取るべき行動は弁護士への相談です。自己判断で対応したり、状況を放置したりすると、事態がさらに悪化するリスクが高まります。
弁護士に相談することで、現在の状況の法的評価、今後の手続きの見通し、取り得る対応策などについて専門的な助言を得ることができます。弁護士には守秘義務があるため、相談内容が外部に漏れることはありません。
法律相談の具体的な方法としては、日本弁護士連合会(日弁連)の法律相談センターや各地の弁護士会などがあります。また刑事事件に特化した法律事務所に直接相談することも可能です。
加害者本人が示談交渉できない理由
被害者保護の観点から、盗撮事件では加害者本人が被害者と直接接触することは、捜査機関によって認められていません。盗撮は性犯罪に分類され、被害者は加害者との接触に強い恐怖や抵抗を感じるのが通常です。
捜査機関は、被害者への二次被害を防止する意味合いから、加害者本人には被害者の氏名や連絡先を開示しません。加害者からの直接接触が被害者をさらに傷つけたり、証拠隠滅や口裏合わせと受け取られたりするリスクがあるためです。
一方、弁護士を介した場合、捜査機関は被害者の同意を得た上で、弁護士に連絡先を開示することがあります。弁護士という第三者が介入することで、被害者も安心して示談交渉に応じやすくなり、適正な内容での合意形成が可能になるとされています。
仮に被害者の連絡先を知っていた場合でも、加害者本人が直接連絡をすると被害者を怖がらせてしまい、かえって示談交渉が困難になる可能性があります。警察からも警戒され、証拠隠滅を疑われる危険性もあるでしょう。
被害者が特定できない場合はどうなるのか

盗撮事件では、被害者を特定できないケースが存在します。電車内やエスカレーターなど公共の場所で無差別に盗撮が行われた場合、被害者がその場を立ち去ってしまい、後から特定が困難になるケースもあります。
スマートフォンやカメラから盗撮データが発見されても、撮影場所や日時の特定ができなければ、被害者を見つけ出すことは極めて難しくなります。
被害者不明の場合、示談交渉という手段が取れないため、刑事手続きや量刑判断にどのような影響が出るのか理解しておく必要があります。被害者特定の有無は、その後の対応方針を大きく左右する重要な要素といえるでしょう。
余罪調査で処罰が重くなる可能性
被害者が特定できない盗撮事件では、捜査の過程で複数の余罪が発覚するケースが少なくありません。押収されたスマートフォンやパソコンから過去の盗撮データが見つかれば、それらが余罪として扱われます。
余罪の件数が多い場合、量刑判断において不利に働く傾向があります。複数の犯行が併合罪として扱われると、刑罰の上限が加重される可能性があるためです。
例えば、盗撮行為の本件と余罪の両方が迷惑防止条例違反となった場合、通常は1年以下の懲役ですが、併合罪になると1年6か月まで上限が引き上げられます。
余罪の調査には時間を要するため、身柄拘束の期間が長期化するリスクも伴います。捜査機関は余罪の全容を把握するまで慎重に捜査を進めるため、勾留延長が認められやすくなる傾向があることを理解しておくべきでしょう。
ただし、余罪があるからといって必ずしも別件で再逮捕されるわけではありません。撮影場所や日時が特定できない余罪については、別件立件されず、本件の量刑事情として考慮されるにとどまることが一般的とされています。
被害者不明でも刑事責任は問われる
盗撮は非親告罪であり、被害者からの告訴がなくても起訴できる犯罪です。被害者が特定されていなくても、犯罪の成立要件を満たしていれば刑事責任を問われることになります。
現行犯逮捕された状況や、防犯カメラの映像、盗撮データそのものが証拠となり、被害者の供述がなくても立件は可能です。客観的な証拠が揃っていれば、捜査機関は被害者不明のまま事件を進めることができます。
被害者が特定されていない場合、被害者の処罰感情という要素が存在しないため、検察官は犯行の態様や反省の程度といった事情を中心に処分を判断します。初犯で余罪もなく、反省の態度を示していれば、比較的軽い処分で済む可能性があるとされています。
一方で、示談による処分軽減の機会が得られないという側面もあります。被害者が特定されているケースでは示談により不起訴を目指せますが、被害者不明の場合はそうした選択肢が取れません。このような状況では、反省文の作成や贖罪寄付などの代替的な対応が重要になってきます。
示談が成立すると得られる4つの効果

盗撮事件で示談が成立すると、刑事手続きの各段階において有利な事情として評価されます。逮捕前の段階から裁判後まで、示談の有無は処分や判決に大きな影響を与える重要な要素です。
示談は被害者に対する謝罪と賠償を通じて、民事上の問題を解決すると同時に、刑事処分の軽減にもつながります。被害者から許しを得たという事実は、検察官や裁判官の判断において重視される傾向があります。
示談のタイミングによって得られる効果は異なりますが、早期に成立させるほど有利な結果につながる可能性が高まります。ここでは、示談成立によって期待できる具体的な4つの効果について説明していきます。
逮捕前なら刑事事件化を防げることも
警察の捜査が開始される前や、被害届が提出される前の段階で示談が成立すれば、事件が刑事手続きに進まない可能性があります。被害者が被害届を出さない、または出した被害届を取り下げることで、事件化を回避できるケースが存在します。
特に初犯で犯行が軽微な場合、被害者との示談が早期に成立すれば、警察が事件を検察に送致せず、厳重注意や微罪処分で終了することもあります。このような結果が得られれば、前科がつくことなく社会生活を続けられます。
ただし、刑事事件化の回避は保証されるものではありません。犯行の悪質性や余罪の有無、被疑者の反省の程度など、総合的な事情を踏まえて捜査機関が判断します。
勾留されても早期釈放が期待できる
逮捕後に勾留された場合でも、示談が成立すれば早期の身柄解放が期待できます。勾留の必要性は逃亡や証拠隠滅のおそれを基準に判断されますが、被害者との示談成立によりこれらのおそれが低いと評価される傾向があります。
検察官が勾留請求をしない、または裁判官が勾留請求を却下することで、逮捕後3日以内に釈放される可能性が高まります。すでに勾留されている場合でも、示談成立を受けて勾留が取り消され、釈放に至るケースは少なくありません。
身柄拘束の期間が短縮されれば、職場や学校への影響を最小限に抑えることができます。勾留が最長20日間続くと解雇のリスクが高まりますが、数日程度の不在であれば体調不良などの理由で対応できる場合もあるでしょう。
執行猶予つき判決の可能性が高まる
起訴されて刑事裁判となった場合でも、示談成立は量刑判断において有利な情状として評価されます。被害者に対する謝罪と賠償が済んでいることは、被告人の反省や更生意欲を示す重要な事情となるためです。
執行猶予は、3年以下の懲役または禁錮刑、50万円以下の罰金の言渡しを受けた場合に付される可能性があります。初犯で情状に酌むべき事情がある場合、裁判所は刑の執行を一定期間猶予する判断をすることがあります。
示談が成立していれば、被害者の処罰感情が和らいでいることや、被害回復がなされていることが認められ、執行猶予が付される可能性が高まります。実刑と執行猶予では、社会生活への影響が大きく異なるため、示談による量刑への影響は極めて重要といえるでしょう。
ただし、執行猶予の判断は犯行の悪質性、前科の有無、再犯の可能性など、様々な事情を総合的に考慮して行われます。示談が成立していても、必ず執行猶予が付されるわけではないことを理解しておく必要があります。
刑事と民事を同時に解決できる
盗撮は刑事上の犯罪であると同時に、民法上の不法行為にも該当します。刑事事件として処罰されるだけでなく、被害者から民事訴訟で損害賠償を請求される可能性があります。
示談書に清算条項を盛り込むことで、民事上の債権債務関係を一度に解決できます。「本示談書に定めるもののほか、当事者間には何らの債権債務がないことを確認する」という条項により、後日の追加請求を防ぐことが可能です。
刑事事件で罰金刑を受けた場合、その罰金は国に対して支払うものであり、被害者への賠償にはなりません。示談を成立させずに罰金刑を受けた場合、さらに民事訴訟で慰謝料を請求されると、経済的な負担が二重になってしまいます。
示談により刑事と民事を同時に解決できれば、一回の金銭支払いで法的な問題を包括的に終結させることができます。精神的にも経済的にも、紛争を長引かせないメリットは大きいといえるでしょう。
示談金の支払額と支払方法
盗撮事件の示談において、示談金は損害賠償や慰謝料を含む総合的な金銭を指します。
加害者が被害者に支払う示談金には、被害者が受けた精神的苦痛に対する慰謝料や、盗撮行為によって生じた具体的な損害が含まれるのです。示談金の金額や支払方法は、加害者と被害者の間で合意により決定されます。
できるだけ金銭負担を減らす意味合いでも、盗撮事件における示談金の性質を正しく理解し、適切な金額での示談成立を目指すことが重要です。
一般的な金額の範囲
盗撮事件の示談金相場は、一般的には10万円から50万円程度とされています。
ただし、この金額はあくまで目安であり、事案ごとに大きく異なることを理解しておく必要があります。弁護士法人や法律事務所の実績では、中間値として30万円前後で示談が成立するケースが多く見られるようです。
悪質性が高い事案では100万円を超えることもあれば、軽微なケースでは10万円程度で合意に至ることもあります。盗撮した画像や動画を販売していた場合、被害者が精神的に深刻な影響を受けた場合など、特殊な事情があれば相場を大きく上回る金額になることもあります。
相場を知ることで示談交渉における不安を軽減できますが、「必ず〇〇万円」という固定的な基準は存在しません。適正な金額は個別の状況により変わるため、具体的な金額についてはかならず弁護士に相談するようにしましょう。
金額を左右する具体的な要素
示談金の額は、犯行の態様によって大きく変動します。
撮影箇所が下着か全裸か、撮影回数は1回か複数回か、隠しカメラを設置していたか、といった要素が金額に影響を与えるのです。建造物侵入を伴う盗撮や、常習的な犯行は悪質性が高いと判断され、示談金が高額になる傾向があります。
被害者の被害感情や処罰意思の強さも重要な要素です。被害者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した場合、日常生活に支障をきたした場合、転居を余儀なくされた場合など、精神的苦痛が大きいほど示談金は高額になりやすいでしょう。
加害者の反省状況、謝罪の真摯さ、支払能力なども交渉に影響します。真摯な反省の態度を示し、早期に示談交渉を開始することで、被害者の処罰感情が和らぐ可能性があるのです。
一括払いが難しい場合の選択肢
示談金の支払いは一括払いが原則とされています。
しかし、金額が高額で一括での支払いが困難な場合、被害者の同意が得られれば分割払いも可能です。分割払いを認めてもらうためには、最初にある程度まとまった頭金を用意する、確実な支払計画を提示する、といった対応が求められます。
分割払いの場合、示談書には期限の利益喪失条項を記載することが一般的です。この条項は、支払いが1回でも滞った場合、残金全額を一括で支払う義務が生じることを定めるものです。
示談金の支払交渉では、支払能力と示談成立のバランスを考慮することが重要です。無理な金額での合意は、後に支払いが滞るリスクを高めます。
一括での支払いは困難な場合、弁護士を通じて交渉することで、被害者も分割払いに応じやすくなり、現実的な支払計画での示談成立が期待できるでしょう。
示談交渉の実際の進め方

示談交渉は、開始から示談書作成まで複数の段階を経て進められます。
各段階において弁護士が果たす役割は大きく、被害者との連絡調整、金額交渉、書面作成など、専門的な対応が求められます。交渉期間は事案の内容や被害者の意向により異なりますが、早期に着手することで有利な結果につながる可能性が高まります。
示談交渉の流れを理解しておくことで、今後の見通しが立てやすくなるでしょう。
弁護士が被害者の連絡先を入手する
盗撮事件では、加害者本人が被害者の連絡先を知らないケースが大半です。
弁護士が依頼を受けると、まず警察や検察といった捜査機関に対し、被害者の連絡先を照会します。捜査機関は被害者に意向を確認し、被害者が同意すれば弁護士に氏名や電話番号などを開示してくれます。
ただし、被害者が連絡先の開示を拒否する可能性もあります。被害者が加害者側との接触を強く拒んでいる場合、精神的ショックが大きい場合などは、弁護士への開示にも応じてもらえないことがあるのです。
このような場合では、弁護士が捜査機関を通じて謝罪文を届けてもらう、贖罪寄付を行うなど、代替的な方法を検討することになります。被害者の意向を尊重しながら、できる限りの対応を行うことが重要です。
交渉開始から合意書作成まで
弁護士は被害者の連絡先を入手後、適切なタイミングで初回接触を行います。
まず加害者からの謝罪文を届け、示談交渉を進めたい旨を伝えます。被害者が示談交渉に応じる意向を示せば、具体的な条件についての話し合いが始まります。
交渉では示談金の額、支払方法、その他の条件について協議を重ねます。弁護士は過去の事例や法的知識を活かし、双方が納得できる条件を模索します。
示談交渉では、被害者の処罰感情に配慮しながら、加害者の支払能力も考慮した現実的な提案を行います。交渉が難航する場合もありますが、粘り強く対応することで合意に至るケースが多いでしょう。
合意に達すると、弁護士が示談書を作成します。示談書には事件の概要、示談金額、支払方法、その他の合意事項を明記し、双方が署名・押印することで示談が成立します。
示談金の支払いは、弁護士が一旦預かり、弁護士名義で被害者の指定口座に振り込む方法が一般的です。こうすることで、確実な支払いが担保されます。
示談書に必ず入れるべき2つの条項
示談書には、清算条項と宥恕条項という2つの重要な条項を記載することが不可欠です。
清算条項とは、示談金以外に当事者間で債権債務がないことを確認する条項を指します。具体的には「本示談書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった文言を記載するのです。
この条項により、示談成立後に被害者から追加の損害賠償請求をされることを防ぐことができます。
宥恕条項とは、被害者が加害者を許し、寛大な処分を求める旨を記載する条項です。「加害者を許し、刑事処罰を求めない」といった文言により、被害者の処罰感情が和らいでいることを示します。
この条項は、検察官が不起訴処分を判断する際の重要な材料となります。宥恕条項があることで、起訴猶予による不起訴の可能性が大きく高まります。
ただし、宥恕条項がなくても示談の効果がまったくないわけではなく、示談成立自体が有利な事情として考慮されることを知っておくべきでしょう。
示談金の過剰請求や示談拒否への対応策
示談交渉は必ずしも想定通りに進むとは限りません。
被害者から相場を大きく超える示談金額を要求されたり、示談交渉そのものを拒否されたりするケースも現実には存在します。ただしこうした困難な状況に直面しても、対応策は残されているのです。
弁護士を通じた交渉や代替手段の活用により、加害者の反省と償いの意思を示すことは可能です。被害者の権利を尊重しながら、加害者側も適切な対応を取ることで、刑事手続きにおいて一定の評価を得られる可能性があります。
相場を超える示談金額を要求された場合
示談交渉では、被害者から提示される示談金が相場を大きく超える場合があります。
被害者の精神的苦痛が深刻である場合、処罰感情が強い場合、起訴直前で交渉を急ぐ必要がある場合などは、相場を上回る金額が提示される傾向があるのです。盗撮事件では通常10万円から50万円程度が相場とされていますが、100万円を超える請求がされることもあります。
こうした場合、相場を超える金額かどうかの判断は専門的な知識を要します。弁護士は過去の事例や法的知識を活かし、提示された金額が適正な範囲内かを判断できるのです。
もし法外な請求と判断される場合、弁護士が類似事案の相場を示しながら減額交渉を行います。分割払いの提案や、支払可能な上限額を事前に決めておくことも選択肢となるでしょう。
交渉が決裂した場合でも、誠実に示談交渉に臨んだ事実は情状として評価される可能性があります。弁護士は示談交渉の経過を記録し、検察官に報告することで、加害者の真摯な態度を伝えることができるのです。
被害者が示談に応じない場合の代替手段
被害者が示談交渉自体を拒否するケースも少なくありません。
被害者の処罰感情が強い場合、精神的ショックから加害者側との接触を避けたい場合、あるいは連絡先の開示すら拒否される場合など、示談交渉の機会すら得られない状況があるのです。盗撮事件では被害者の被害感情が厳しいため、こうした事態は決して珍しくありません。
盗撮事件で逮捕された場合、不起訴を獲得する意味でも示談を目指すのが最も重要ですが、示談が唯一の方法ではありません。示談以外にも、反省と償いの意思を示す選択肢は存在します。
供託制度や贖罪寄付といった代替手段を活用することで、被害者の意思によらず、加害者側の真摯な姿勢を客観的に示すことができるのです。これらの代替手段も、刑事手続において情状として一定程度評価される可能性があります。
ただし、代替手段の効果は示談に比べれば限定的であることを理解しておく必要があります。特に性犯罪では被害者の意思が重視されるため、代替手段だけで不起訴を獲得するのは容易ではありません。
それでも、何もしないよりは加害者にとって有利な情状となる可能性があるため、弁護士と相談しながら適切な対応を検討すべきでしょう。
供託制度の活用
供託とは、法務局に金銭を預けることで賠償の意思を示す制度です。
被害者が示談金の受領を拒否している場合、加害者は被害者の住所地を管轄する法務局に金銭を供託することができます。供託をすれば、民法上は被害者に弁済したのと同様の効果が生じるのです。
供託を行うためには、事前に被害者に賠償金の支払いを申し出て拒否される必要があります。被害者の氏名と住所(少なくとも管轄の法務局が特定できる程度)が分かっていることも条件です。被害者が連絡先の開示を拒否している場合、供託することはできません。
供託が刑事手続で情状として考慮される可能性はあります。被害回復に向けた努力として評価され、不起訴や執行猶予の可能性を高める要素となり得るのです。
供託の手続きは専門的で複雑です。供託書の記載内容、遅延損害金の計算、供託所との調整など、法律の知識が必要となります。供託を検討する場合は、弁護士に依頼して手続きを進めてもらうことが望ましいでしょう。
贖罪寄付による反省の意思表示
贖罪寄付とは、弁護士会や慈善団体に寄付をすることで反省の意思を示す方法です。
刑事事件を起こした者が、罪を償う気持ちで公益活動に役立ててもらうために寄付を行うもので、弁護士会が証明書を発行してくれます。この証明書を検察官や裁判官に提出することで、反省の態度を客観的に示すことができるのです。
贖罪寄付は、被害者が特定されていない場合や、被害者が示談に一切応じてくれない場合に検討される手段です。被害者の意思にかかわらず加害者側の判断で実行できるため、示談交渉ができない状況でも利用可能なのです。
寄付されたお金が被害者に支払われるわけではありませんが、反省の気持ちを行動で示す方法として評価される可能性があります。
贖罪寄付は起訴前に行えば不起訴処分の可能性を高め、起訴後であれば執行猶予や減刑につながる可能性があります。盗撮事件で被害者が特定されず示談できないケースでは、贖罪寄付により不起訴を獲得できる可能性もあります。
ただし、被害者が存在する性犯罪では、贖罪寄付をしても起訴される可能性が高いことを理解しておく必要があります。被害者の処罰感情が厳しく示談できなかった場合、贖罪寄付だけで不起訴を獲得するのは困難です。
それでも反省の姿勢を示す手段として意味があり、量刑判断において有利な情状として考慮される可能性はあるでしょう。
寄付先の選定や手続きは、弁護士を通じて行うのが一般的です。寄付金額についても事案の内容に応じて決定する必要があるため、弁護士に相談されることをお勧めします。
盗撮行為に適用される法律と刑罰

盗撮事件では、どのような法律が適用され、どのような刑罰が科されるのでしょうか。
盗撮を処罰する法的根拠は複数存在します。2023年7月13日以降に行われた盗撮については、性的姿態撮影等処罰法の撮影罪が原則として適用されます。
それ以前の盗撮や、法律の適用要件を満たさないケースでは、各都道府県の迷惑防止条例や軽犯罪法が適用される仕組みです。さらに、盗撮の手段として建物に侵入した場合には、建造物侵入罪が加わることもあります。
本項では、2025年10月現在の法令に基づく一般的な解説を行います。
迷惑防止条例違反の罰則
各都道府県が制定する迷惑防止条例は、公共の場所などでの盗撮行為を規制しています。
東京都を例にとると、法定刑は1年以下の懲役または100万円以下の罰金とされています。対象となるのは、公共の場所や公共の乗り物、学校、事務所などで、人の通常衣服で隠されている下着や身体を撮影する行為です。実際に撮影しなくても、撮影目的でカメラを差し向けたり設置したりする行為も処罰の対象となります。
常習犯に対しては、より重い刑罰が科される加重規定を設けている自治体もあります。福岡県の条例では、常習として行った場合には2年以下の懲役または100万円以下の罰金と定められています。
撮影罪の罰則
「撮影罪(性的姿態等撮影罪)」は2023年7月13日に施行された「性的姿態撮影等処罰法(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律)」により規定されました。
スマートフォンの普及によって盗撮件数が年々増加しており、各都道府県の迷惑防止条例を超えて全国一律で処罰する規定が求められた中で、新設されたのが「撮影罪」です。
性的姿態等とは、次の3つを指します。
- 性器や臀部、胸部などの性的な体の部位
- 性的な部位を隠すために着用している下着
- わいせつな行為や性交等がされている間の姿態
撮影罪では各都道府県の迷惑防止条例よりも刑罰の上限が拡大されています。撮影罪に該当するような性的姿態等の撮影を行った場合、法定刑は「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」となります。上記の東京都迷惑防止条例に比較すると、刑期、罰金額とも3倍に拡大されています。
建造物侵入罪が加わるケース
盗撮目的で建物に立ち入った場合、盗撮の罪に加えて建造物侵入罪が成立することがあります。刑法第130条は、正当な理由なく人の看守する建造物に侵入する行為を処罰しており、法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
トイレや更衣室などに盗撮目的で忍び込んだ場合、建物の管理者の意思に反した侵入として建造物侵入罪が成立します。銀行に暗証番号の盗撮目的で立ち入った行為についても、建造物侵入罪の成立を認めた判例があります。
複数の罪が成立する場合、手段と目的の関係にある牽連犯として、より重い刑で処断されることになります。実際の量刑は裁判所の判断により決まり、事案の内容や本人の反省状況などが総合的に考慮されます。
被害者側が示談しない場合の被害者側の負担
示談しない選択をした場合、被害者にはどのような負担が生じるのでしょうか。
被害者の立場から見ると、示談には事件を早期に解決し、精神的負担を軽減できるメリットがあります。示談が成立すれば、刑事裁判での証人尋問や民事裁判での手続きといった、時間的・心理的な負担を回避できる可能性が高まります。
一方、示談しない選択をした場合、これらの手続きを経る必要が生じることがあります。加害者側としても、被害者の心情や立場を理解し、誠実な対応を心がけることが求められます。
刑事裁判で証人尋問を受ける
起訴後の刑事裁判では、被害者が証人として出廷を求められる可能性があります。
被告人が犯罪事実を争う場合、警察や検察で作成した供述調書だけでは証拠として不十分なことがあり、被害者本人が法廷で証言する必要が生じます。法廷での証言は、加害者と対面する精神的負担や、事件の詳細を公開の場で語ることによる二次被害のリスクを伴います。
性犯罪の被害者に対しては、証人への付添いや遮蔽措置、ビデオリンク方式による証人尋問など、負担を軽減する配慮措置が用意されています。
示談が成立すれば、不起訴処分となり刑事裁判自体が開かれない可能性が高まります。起訴された場合でも、略式起訴により公開の法廷での審理を経ずに罰金刑で終わることもあります。
被害者の心情に配慮した手続きが重視されていますが、証人尋問の負担は決して小さくありません。
民事で慰謝料請求の手続きが必要になる
示談が成立しない場合、被害者は別途民事訴訟を提起して慰謝料を請求する必要があります。
民事訴訟には、訴状の作成、証拠の収集、裁判への出廷など、多くの手続きが必要です。訴訟の期間は数か月から1年以上に及ぶこともあり、その間の精神的ストレスは相当なものとなります。
訴訟費用として、収入印紙代や郵便切手代のほか、弁護士に依頼する場合は弁護士費用も必要です。通常の民事訴訟では、請求額に応じて数万円から数十万円の費用がかかることになります。
刑事裁判の結果を利用できる損害賠償命令制度を利用すれば、手続きの簡略化が図れますが、対象事件に限りがあります。
示談により、被害者側もこれらの時間的・経済的負担を回避できるメリットがあります。双方にとって合理的な選択となる場合があることを理解しておきましょう。
当事務所では、初回無料で法律相談を受け付けております。お気軽にお電話またはLINEにてお問い合わせください。



