公開日:2026/11/03 コラム
医師の収賄を刑事告発するには?必要な証拠と手続き・告発方法を解説

「勤務先の病院で、医師が医療機器メーカーから金銭を受け取っている」「特定のメーカーの製品を優先的に使用する見返りに、謝礼が支払われているようだ」
医師と医療機器メーカーの間で不正な金銭授受が行われている場合、収賄罪や贈賄罪が成立する可能性があります。
ただし、金銭授受があったというだけで、直ちに犯罪が成立するわけではありません。また、刑事告発を行うには、犯罪事実や証拠を整理し、捜査機関に説明する必要があります。
刑事告発は犯罪の被害者に限らず、病院職員やメーカーの社員など、第三者でも行うことができます。
この記事では、医師や医療機器メーカーの贈収賄を刑事告発するために必要な証拠、告発状の作成方法、告発後の流れ、弁護士に依頼するメリットについて解説します。
医師や医療機器メーカーを刑事告発できるのは誰?
医師や医療機器メーカーによる贈収賄の疑いを知った場合、刑事告発できるのは、直接被害を受けた人だけではありません。
病院の職員や医療機器メーカーの社員、取引先など、事件の当事者ではない第三者でも刑事告発することができます。
刑事告発を検討する際には、単なる噂や憶測ではなく、犯罪を疑うに至った具体的な事情を整理することが重要です。
ただし、刑事告発をするために、犯罪の成立を確実に証明できる証拠をすべてそろえておく必要があるわけではありません。
もっとも、告発状を提出すれば必ず受理されるというものではありません。捜査機関に犯罪事実を具体的に伝えるためには、いつ、誰が、どのような行為をしたのか、何を根拠に犯罪を疑っているのかを整理しておくことが重要です。
また、刑事訴訟法239条2項では、公務員について特別な規定が設けられています。
| 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。 |
したがって、公務員に該当する公立病院の職員が、職務上、犯罪があると思料した場合には、法律上の告発義務が問題になります。
一方、民間病院の職員や医療機器メーカーの社員については、刑事訴訟法239条2項による告発義務が一般的に課されているわけではありません。
刑事告発は、事件に直接関与していない第三者にも認められた手続きであり、医療現場の不正を知った人が捜査機関に犯罪事実を申告する手段の一つです。
刑事告発と内部告発・公益通報の違い
医療現場の不正を明らかにする方法には、刑事告発のほかに、勤務先への内部通報や公益通報があります。
これらは似た言葉ですが、手続きの目的や通報先、法的な保護の仕組みが異なります。
- 刑事告発:犯罪があると考えられる事実を警察や検察に申告し、犯人の処罰を求める手続きです。犯罪の被害者以外でも行うことができます。
- 内部通報:勤務先の病院や企業に設けられた相談窓口、コンプライアンス部門などに不正を知らせることです。組織内部での調査や是正を求める方法です。
- 公益通報:労働者などが、勤務先などに関する一定の法令違反について、不正の目的でなく、法律で定められた通報先に知らせることです。要件を満たす場合には、公益通報者保護法による保護を受けられます。
例えば、医療機器メーカーの社員が、医師への不正な金銭の支払いを知り、社内のコンプライアンス窓口に通報する場合は、内部通報に当たります。
一方、警察や検察に対して犯罪事実を申告し、関係者の処罰を求める場合は、刑事告発となります。
なお、刑事告発と公益通報は必ずしも別々のものではなく、刑事告発が公益通報者保護法上の要件を満たす場合には、公益通報にも該当することがあります。
ただし、刑事告発をしたというだけで、当然に公益通報者保護法による保護を受けられるわけではありません。
公益通報者保護法による保護を受けられるかどうかは、通報する人の立場や通報内容、通報先などによって異なります。
また、病院職員やメーカー社員が不正を告発する場合には、勤務先との関係や守秘義務、個人情報の取扱いなどにも注意が必要です。
そのため、刑事告発を検討している場合には、不正の内容だけでなく、自分の立場や告発に伴うリスクも考慮したうえで、適切な方法を選択することが重要です。
医師の収賄罪・メーカー側の贈賄罪が成立する条件

刑法197条1項では、公務員が職務に関して賄賂を受け取ったり、要求・約束したりする行為を収賄罪として処罰しています。
また、刑法198条では、公務員に対して賄賂を渡したり、その申込みや約束をしたりする行為を贈賄罪としています。
医師と医療機器メーカーの間で贈収賄罪が成立するかどうかを判断するうえで、特に重要なのは次の2点です。
- 医師が公務員に該当するか:地方公務員の身分を有する公立病院の医師や、法令によって公務員とみなされる医師などが対象になります。
- 金銭や利益の提供が医師の職務に関係しているか:医療機器の選定や購入、使用などの職務に関連して利益が提供されたかが問題になります。
例えば、公立病院の医師が特定の医療機器メーカーの製品を優先的に採用する見返りとして現金を受け取った場合、収賄罪が成立する可能性があります。
一方、民間病院に勤務する医師は、原則として刑法上の収賄罪の対象にはなりません。ただし、金銭授受の内容によっては、背任罪など別の犯罪が問題になる場合があります。
贈収賄罪の成立を検討するには、単に金銭の受渡しを確認するだけでなく、医師の職務と金銭授受の関係を明らかにする必要があります。
医療機器の選定や使用実績に応じた謝礼も犯罪になる?
医療機器メーカーが、医師に対して製品の採用や使用実績に応じた謝礼を支払っていた場合、その目的や医師の立場によっては贈収賄罪が成立する可能性があります。
例えば、公務員に該当する医師が、特定メーカーの医療機器を優先的に使用する見返りとして、使用件数に応じた金銭を受け取っていたようなケースです。
また、賄賂は現金に限られません。飲食接待や旅行費用の負担、物品の提供なども、職務との関連性によっては賄賂に該当する場合があります。
実際に製品を購入したり、メーカーに便宜を図ったりしていなくても、職務に関する賄賂を受け取った時点で収賄罪が成立する場合があります。
もっとも、医師がメーカーから受け取る金銭のすべてが賄賂になるわけではありません。
医師が医療機器の研究や調査、講演などを行い、その対価として正当な報酬を受け取ること自体は、直ちに犯罪となるものではありません。
刑事告発を検討する際には、契約の内容や実際の業務、報酬の支払経緯などを確認し、正当な報酬と職務上の便宜に対する利益供与を区別することが重要です。
実際に起きた医師と医療機器メーカーの贈収賄事件
2025年、長野県の佐久市立国保浅間総合病院で、医師が医療機器メーカーから現金を受け取っていた贈収賄事件が発覚しました。
この事件では、同病院の整形外科医師2人が、医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」の製品を選定・使用するなどの便宜を図った見返りに、現金を受け取ったとして収賄罪で起訴されました。
報道によると、メーカー側は医療機器の使用実績に応じてポイントを付与し、医師らは私的な飲食代などの領収書と引き換えに現金を受け取っていたとされています。
2026年3月11日、東京地方裁判所は、元整形外科医長の医師に対し、懲役1年2月、執行猶予3年、追徴金58万円の有罪判決を言い渡しました。また、別の医師にも同年2月27日に有罪判決が言い渡されています。
この事件は、医療機器の選定や使用と金銭授受との関係が、贈収賄罪の成立を判断するうえで重要になることを示しています。
医療現場で同様の不正が疑われる場合には、医師とメーカーの間でどのような金銭授受が行われ、それが医師の職務とどのように関係していたのかを具体的に整理することが、刑事告発を検討するうえで重要です。
医師の収賄を刑事告発するために必要な証拠
医師や医療機器メーカーによる贈収賄を刑事告発する場合、重要になるのが犯罪事実を裏付ける証拠です。
収賄罪は、単に医師がメーカーから金銭を受け取っただけで成立するものではありません。医師が公務員に該当することに加え、金銭授受と医師の職務との関連性などが問題になります。
そのため、刑事告発を検討する際には、金銭授受の事実だけでなく、医療機器の選定や使用と金銭の支払いがどのように関係していたのかを示す証拠が重要です。
具体的には、振込記録や領収書、メールやLINEのやり取り、医療機器の選定経緯に関する資料などが考えられます。
ただし、これらの証拠をすべてそろえなければ刑事告発できないわけではありません。手元にある資料や把握している事実を整理し、犯罪があると考える根拠を具体的に説明することが大切です。
金銭授受を示す振込記録・領収書など
医師と医療機器メーカーとの間で金銭授受が行われていたことを示す資料は、贈収賄を裏付ける重要な証拠となります。
例えば、次のような資料が考えられます。
- 銀行振込の記録:メーカーから医師や関係者に支払われた金銭の金額、支払日、振込名義などを確認できる資料
- 領収書や請求書:飲食費や謝礼などの名目で支払われた金銭の内容を確認できる資料
- 謝礼の支払記録:医療機器の使用件数や購入金額に応じた報酬の計算方法、支払金額などが記載された資料
- 業務委託契約書:研究や講演、調査などの名目で医師に報酬が支払われていた場合、その契約内容や報酬の条件を確認できる資料
もっとも、振込記録や領収書が存在するだけでは、その金銭が賄賂であったと直ちに判断することはできません。
例えば、医師がメーカーから研究業務を委託され、実際に研究を行った対価として報酬を受け取っていた場合には、正当な取引である可能性があります。
一方、契約書には研究報酬と記載されていても、実際には研究が行われておらず、医療機器の採用や使用に対する謝礼として支払われていた場合には、賄賂に該当する可能性があります。
刑事告発では、金銭が支払われた事実に加えて、なぜ支払われたのか、どのような職務との関係で支払われたのかを明らかにすることが重要です。
医師とメーカーのメール・LINEなどのやり取り
医師と医療機器メーカーの担当者とのメールやLINEなどのやり取りも、贈収賄を裏付ける重要な証拠となる場合があります。 特に、医療機器の採用や使用の見返りとして金銭を支払う約束や、謝礼の金額・支払方法についてのやり取りが残されていれば、医師の職務と金銭授受との関連性を示す手掛かりになります。
もっとも、刑事告発をするために、医師とメーカーのメールやLINEを必ず入手しなければならないわけではありません。
例えば、病院職員が業務上、不正な金銭授受を疑わせるメールを見た場合には、その内容や送受信の時期、関係者など、把握している事実を整理することが考えられます。
また、刑事告発後の捜査によって、関係者の通信記録や金銭授受の実態が明らかになる場合もあります。
ただし、証拠を得るために他人のアカウントへ無断でログインしたり、勤務先の秘密情報を無断で持ち出したりする行為には法的なリスクがあります。
証拠が手元にない場合には、無理に資料を取得しようとせず、現在把握している事実から刑事告発が可能かを弁護士に相談することが重要です。
医療機器の選定経緯・使用実績に関する資料
医師の収賄を刑事告発する場合、金銭授受の記録と同じく重要なのが、医療機器の選定や使用に関する資料です。
収賄罪の成立には賄賂と公務員の職務との関連性が必要となるため、医師が医療機器の選定などにどのような立場で関与していたのかを確認する必要があります。
具体的には、次のような資料が考えられます。
- 医療機器の購入・選定に関する資料:製品の選定経緯、購入の決裁記録、選定会議の議事録など
- 医療機器の使用実績:特定メーカーの製品がいつ、どの程度使用されていたかを示す資料
- 医師の職務や権限に関する資料:製品の選定や購入に関与する立場であったかを確認できる資料
- メーカーとの取引に関する資料:製品の採用や使用状況と謝礼の支払いとの関係を確認できる資料
例えば、特定の医師がメーカーから継続的に金銭を受け取っており、その金額が医療機器の使用件数に応じて増減していた場合、金銭授受と医師の職務との関連性を検討する重要な事情となります。
また、医師が最終的な購入決定権を持っていなかったとしても、製品の選定や購入に職務上関与していた場合には、収賄罪の成立が問題になることがあります。
もっとも、特定メーカーの製品の使用件数が多いという事実だけで、不正があったと断定することはできません。
医療機器の選定には、性能や安全性、患者の状態、医療上の必要性など、さまざまな事情が関係するためです。
刑事告発では、医療機器の使用実績と金銭授受の記録を照らし合わせ、医師の職務に関して利益が提供されていたと考える具体的な根拠を整理することが重要です。
直接的な証拠がなくても刑事告発できる?
医師と医療機器メーカーの間で不正な金銭授受が行われていると疑っていても、振込記録やメールなどの直接的な証拠を入手できない場合もあるでしょう。
しかし、直接的な証拠がないという理由だけで、刑事告発ができなくなるわけではありません。
刑事訴訟法239条1項では、犯罪があると思料するときは、誰でも告発できると定められています。告発の時点で、犯罪の成立を証明するすべての証拠を提出することまでは求められていません。
例えば、次のような事情を把握している場合が考えられます。
- 特定の医療機器メーカーから医師に継続的な謝礼が支払われていると聞いた
- 医療機器の使用件数に応じた報酬の計算方法を記載した資料を見た
- メーカーの担当者が医師に金銭を渡している場面を目撃した
- 複数の関係者から、具体的な金銭授受について説明を受けた
このような場合には、自分が直接確認した事実と、他人から聞いた情報を区別し、それぞれの内容や情報源を整理することが重要です。
また、金銭授受が行われた時期や場所、関係者の氏名、医療機器の選定との関係など、把握している事情をできる限り具体的にまとめます。
ただし、具体的な裏付けが乏しい場合には、捜査機関が犯罪事実を十分に把握できず、追加の説明や資料を求められることがあります。
そのため、単なる憶測を事実として記載するのではなく、確認できた事実と疑いを持った理由を明確に区別する必要があります。
さらに、手元の資料では確認できない事項については、捜査によって何を解明する必要があるのかを整理することも大切です。
刑事告発を検討しているものの証拠が十分にない場合には、弁護士に相談し、現在把握している事実や資料から犯罪の成立を疑う根拠があるかを検討することができます。
証拠を集める際の注意点
医師や医療機器メーカーの贈収賄を刑事告発するためには証拠が重要ですが、証拠の収集方法には十分な注意が必要です。
特に、病院職員や医療機器メーカーの社員が内部資料を取得する場合には、守秘義務や個人情報保護、営業秘密などの問題が生じる可能性があります。
例えば、次のような行為には注意が必要です。
- 業務上の権限がないにもかかわらず、病院の内部システムにアクセスして資料を取得する行為
- 勤務先の許可なく、機密資料や営業秘密を私物の端末などに保存・持ち出す行為
- 患者の氏名や診療情報を含む資料を、不必要に第三者へ提供する行為
- 他人のメールやLINEのアカウントに無断でアクセスする行為
- 証拠となる資料を改ざんしたり、内容の一部を事実と異なる形で示したりする行為
これらの行為は、その具体的な方法や状況によって、就業規則違反や守秘義務違反、個人情報保護法、不正競争防止法、不正アクセス禁止法などの問題につながる可能性があります。
また、公益通報や刑事告発を目的としていたとしても、証拠の収集や持ち出しが当然に適法となるわけではありません。
そのため、不正を疑う資料を見つけた場合でも、直ちにコピーしたり、勤務先の外部に送信したりすることは慎重に判断する必要があります。
刑事告発のために新たな証拠を取得する必要がある場合には、事前に弁護士へ相談し、適法な方法で収集できるかを確認することが重要です。
すでに把握している事実や、適法に保有している資料だけでも、刑事告発の可能性を検討することはできます。
証拠が十分でないからといって、無理に内部資料を持ち出すのではなく、まずは現時点で把握している情報を整理し、どのような対応が可能かを検討しましょう。
医師や医療機器メーカーの刑事告発は自分でできる?弁護士に依頼する場合との違い

医師や医療機器メーカーによる贈収賄を刑事告発する場合、弁護士への依頼は必須ではありません。刑事告発は、本人が告発状を作成し、警察や検察に提出することもできます。
刑事訴訟法241条では、告発は書面または口頭で、検察官または司法警察員に対して行うことができると定められています。
しかし、医療現場の贈収賄事件では、単に金銭のやり取りを説明するだけでは不十分で、告発状の作成や捜査機関への説明には専門的な知識が求められます。
以下では、自分で刑事告発する場合と弁護士に依頼する場合の違いを、具体的な手続きに沿って解説します。
収賄罪・贈賄罪に該当するかを判断する
刑事告発を行う際には、まず、問題となっている行為が収賄罪や贈賄罪に該当する可能性があるかを検討する必要があります。
自分で刑事告発する場合には、刑法の規定や関連する法律を確認し、医師の立場、金銭授受の目的、職務との関連性などを整理しなければなりません。
例えば、公立病院の医師が医療機器メーカーから謝礼を受け取っていた場合でも、その医師がどのような職務を担当していたのか、金銭が何の対価として支払われたのかによって、犯罪の成立可能性は異なります。
また、研究費や講演料などの名目で支払われた金銭についても、正当な業務の対価なのか、職務に関する賄賂なのかを慎重に検討する必要があります。
弁護士に依頼した場合には、これらの事情を収賄罪・贈賄罪の成立要件に照らして検討し、刑事告発の対象となる犯罪事実を整理することができます。
なお、刑法上の収賄罪が成立しない場合でも、事案によっては背任罪など別の犯罪が問題になる可能性があります。
証拠を整理して告発状を作成する
刑事告発では、犯罪が行われたと考える根拠を捜査機関に具体的に伝える必要があります。そのため、告発状の作成は重要な手続きの一つです。
告発状には、一般的に次のような内容を記載します。
- 告発人の情報:告発する人の氏名や住所、連絡先など
- 被告発人の情報:告発対象となる医師やメーカー担当者の氏名、勤務先など
- 犯罪事実:いつ、誰が、どのような金銭授受を行ったのか
- 告発の理由:収賄罪・贈賄罪に該当すると考える具体的な事情
- 証拠資料:振込記録、契約書、メール、医療機器の使用実績など
- 処罰を求める意思:被告発人の処罰を求める旨
自分で作成する場合、これらの内容を整理し、犯罪事実と証拠の関係が捜査機関に伝わるように記載する必要があります。
しかし、医療現場の贈収賄事件では、金銭授受の記録だけでなく、医療機器の選定経緯や医師の職務上の権限など、複数の事情を組み合わせて説明しなければならない場合があります。
また、把握している事実と、そこから推測される事項を区別することも重要です。
弁護士に依頼することで、証拠資料を法的な観点から整理し、犯罪事実を具体的に記載した告発状の作成を任せることができます。
直接的な証拠が不足している場合にも、どのような事実が確認できているのか、捜査によって何を明らかにする必要があるのかを整理できます。
警察・検察に告発状を提出する
告発状を作成した後は、警察または検察に提出します。
刑事訴訟法241条では、告発は書面または口頭で行うことが認められていますが、複雑な贈収賄事件では、犯罪事実や証拠関係を整理した告発状を作成して提出する方法が考えられます。
本人が告発する場合には、捜査機関への相談から告発状の提出、犯罪事実の説明、追加資料の準備まで、自分で対応することになります。
告発状を提出する際には、捜査機関から事件の経緯や証拠の内容について詳しい説明を求められることがあります。
特に、医師と医療機器メーカーの間で金銭授受が行われた理由や、医師が製品の選定にどのように関与していたのかは、重要な確認事項となります。
弁護士に依頼した場合には、告発状の提出だけでなく、捜査機関に対する犯罪事実の説明や、追加資料の提出などの対応も任せることができます。
ただし、弁護士に依頼していても、告発人本人に対して事情聴取や説明が求められる場合があります。
また、刑事訴訟法242条では、司法警察員が告発を受けたときは、速やかに関係書類や証拠物を検察官に送付しなければならないと定められています。
告発状が受理されない場合に対応する
告発状を提出しても、その場ですぐに受理されるとは限りません。捜査機関から、犯罪事実の説明や証拠資料の補足を求められる場合があります。
例えば、次のような点が問題となることがあります。
- 犯罪事実が具体的に特定されていない
- 医師の職務と金銭授受との関連性が明確でない
- 提出した資料と告発内容との関係が分かりにくい
- 告発の対象となる行為や関係者が十分に整理されていない
自分で刑事告発する場合には、捜査機関から指摘された事項を確認し、告発状の記載内容を見直したり、追加の資料を準備したりする必要があります。
警察庁は、2024年1月5日付の「知能犯罪に関する告訴・告発の適正かつ合理的な取扱いの推進について(通達)」において、告訴・告発の要件を満たしているものは迅速に受理するよう求めています。
また、特別な事情がある場合を除き、最初の相談日から3か月以内に受理または不受理の判断を行うよう努めることも示されています。
もっとも、これは知能犯罪に関する告訴・告発の取扱いについて警察に示された方針であり、すべての告発について3か月以内の判断や受理が法律上保証されるものではありません。
弁護士に依頼した場合には、告発状が受理されない理由を法的な観点から検討し、犯罪事実の再整理や証拠資料の補足、捜査機関への再説明などを行うことができます。
刑事告発を検討しているものの、告発状の提出が進まない場合や、捜査機関への説明に難しさを感じている場合には、弁護士への相談も選択肢となります。
告発後の捜査と刑事処分
刑事告発が受理された後は、捜査機関によって事件の内容や証拠が調べられます。
警察による捜査では、関係者からの事情聴取や、金銭授受に関する記録、医療機器の選定・購入に関する資料などの確認が行われる場合があります。
また、警察が告発を受けた場合には、刑事訴訟法242条に基づき、関係書類や証拠物が検察官に送付されます。
検察官は、捜査によって収集された証拠などを踏まえ、被疑者を起訴するか、不起訴とするかを判断します。
なお、刑事訴訟法260条では、告発があった事件について検察官が起訴または不起訴の処分をした場合、告発人に速やかにその旨を通知しなければならないと定められています。
また、不起訴となった場合には、告発人は同法261条に基づき、不起訴の理由を知らせるよう請求することができます。
弁護士に依頼している場合には、捜査機関から追加の説明や資料の提出を求められた際の対応や、処分結果に関する連絡などについてもサポートを受けられます。
ただし、刑事告発が受理されたからといって、必ず逮捕や起訴が行われるわけではありません。また、弁護士に依頼した場合でも、捜査の進展や刑事処分の結果が保証されるものではありません。
医師や医療機器メーカーによる贈収賄を刑事告発する場合には、告発状を提出することだけを目的とせず、犯罪事実や証拠関係を十分に整理したうえで、捜査機関に適切に説明することが重要です。
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刑事告訴・告発について詳しくはこちら:「違法行為を告発したい」と思ったら|刑事告訴・告発の方法 |
医師・医療機器メーカーの刑事告発に関するよくある質問
Q1. 医師の収賄を疑っていますが、確実な証拠がなくても告発できますか?
はい。犯罪の成立を確実に証明できる証拠がなくても、刑事告発することは可能です。
刑事訴訟法239条1項では、犯罪があると思料するときは、誰でも告発できると定められています。そのため、告発する段階ですべての証拠がそろっている必要はありません。
ただし、単なる噂や憶測だけでは、犯罪事実を具体的に説明することが難しい場合があります。金銭授受の経緯や医療機器の選定との関係など、把握している事実を整理することが重要です。
証拠が十分にない場合には、弁護士に相談し、現在把握している情報から刑事告発が可能かを検討することもできます。
Q2. 医療機器メーカーの社員が自社の不正を告発できますか?
はい。医療機器メーカーの社員であっても、自社の不正について刑事告発することができます。
刑事告発は犯罪の被害者に限らず、第三者にも認められているためです。
例えば、勤務先のメーカーが公立病院の医師に対して、医療機器の採用や使用の見返りに金銭を支払っていた場合、社員がその事実について刑事告発することも可能です。
ただし、社内資料の持ち出しや秘密情報の取扱いには注意が必要です。また、公益通報者保護法による保護を受けられるかどうかは、通報内容や通報先などの要件によって異なります。
勤務先とのトラブルを避けるためにも、告発前に弁護士へ相談し、適切な方法を検討することが重要です。
Q3. 弁護士に依頼すれば告発状は必ず受理されますか?
いいえ。弁護士に依頼した場合でも、告発状が必ず受理されるわけではありません。ただし受理率は上がります。
告発状の受理に当たっては、犯罪事実が具体的に示されているか、告発の要件を満たしているかなどが問題になります。
弁護士に依頼することで、収賄罪・贈賄罪の成立要件を踏まえた告発状の作成や、証拠資料の整理、捜査機関への説明などを任せることができます。
また、告発状の提出後に追加の説明や資料を求められた場合にも、適切な対応を検討できます。
ただし、最終的な受理の判断は捜査機関が行うため、弁護士への依頼によって受理や起訴が保証されるものではありません。
Q4. 刑事告発したことが医師や勤務先に知られる可能性はありますか?
はい。刑事告発したことが、告発対象となる医師や勤務先に知られる可能性はあります。
刑事告発後の捜査では、関係者への事情聴取や証拠資料の確認などが行われる場合があります。その過程で、告発した人の存在や身元が推測される可能性があります。
また、刑事告発をしたというだけで、告発人の氏名や身元が必ず秘密にされる制度ではありません。
一方、告発の内容や方法によっては、公益通報者保護法による保護を受けられる場合があります。ただし、すべての刑事告発が保護の対象となるわけではありません。
勤務先に知られることを心配している場合には、刑事告発を行う前に、身元が明らかになる可能性や通報者保護制度の適用について、弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ|医師・医療機器メーカーの贈収賄を告発するには証拠と事実関係の整理が重要
医師や医療機器メーカーによる不正な金銭授受が疑われる場合、収賄罪や贈賄罪として刑事告発を検討することができます。
刑事告発は犯罪の被害者に限らず、病院職員や医療機器メーカーの社員など、第三者でも行うことができます。
ただし、医師とメーカーの間に金銭授受があったというだけで、直ちに贈収賄罪が成立するわけではありません。
刑事告発を行う際には、医師の法的な立場や金銭授受の目的、医療機器の選定などの職務との関連性を整理し、犯罪があると考える根拠を具体的に示すことが重要です。
また、直接的な証拠がなくても告発することは可能ですが、単なる憶測ではなく、客観的に確認できる事実を積み重ねる必要があります。
特に、病院や医療機器メーカーの内部関係者が告発する場合には、証拠の収集方法や守秘義務、勤務先との関係にも注意しなければなりません。
刑事告発は自分で行うこともできますが、医療現場の贈収賄事件では、犯罪事実の特定や証拠関係の整理、捜査機関への説明などに専門的な知識が必要となる場合があります。
須賀法律事務所では、これまで数多くの刑事告訴事件を取り扱い、豊富な経験と実績を積み重ねてきました。
刑事告訴に関する専門的な知識と実務経験を活かし、事案に応じた適切な方法で告訴の実現を目指します。
警察に刑事告訴や被害届の受理を断られた方、他の弁護士に依頼を断られた方も、当事務所にぜひ一度ご相談ください
【記事監修】

弁護士 須賀翔紀
須賀法律事務所 代表弁護士。刑事事件を中心に、幅広い法律分野の相談・依頼に対応。相談者の不安や悩みに丁寧に耳を傾け、状況に応じた解決策を提案。専門的な内容も分かりやすく説明し、迅速かつ誠実な対応を重視。オンラインでの相談・依頼にも対応し、全国からの相談を受け付けている。

