2026/10/31 コラム
医師が医療機器メーカーから金銭を受け取ると収賄罪になる?刑罰や医師免許への影響を解説

「医療機器メーカーから謝礼を受け取ってしまった」「製品の採用や使用実績に応じて金銭を受け取っていたが、犯罪になるのだろうか」
このような不安を抱える医師もいるでしょう。
医療機器メーカーから金銭や接待を受けた場合、その経緯や医師の立場によっては、収賄罪が成立する可能性があります。
ただし、医師が金銭や接待を受けたからといって、必ず収賄罪になるわけではありません。収賄罪の成立には、公務員としての身分や職務との関連性など、法律上の要件を満たす必要があります。
また、収賄罪が成立する場合には、刑事責任だけでなく、医師免許に関する行政処分や勤務先での懲戒処分も問題となります。
この記事では、医師が医療機器メーカーから金銭や接待を受けた場合に収賄罪が成立する条件や刑罰、医師免許への影響について解説します。
医師が医療機器メーカーから金銭を受け取ると収賄罪になる?
医師が医療機器メーカーから金銭を受け取った場合、収賄罪が成立するかどうかは、主に医師が公務員に該当するか、金銭の授受が職務に関係するものかによって判断されます。
収賄罪は、公務員がその職務に関して賄賂を受け取ることなどを処罰する犯罪です。そのため、公立病院に勤務する医師と民間病院に勤務する医師では、法律上の扱いが異なります。
公立病院の医師は収賄罪が成立する可能性がある
地方自治体が運営する公立病院に勤務し、地方公務員の身分を有する医師は、刑法上の収賄罪の対象となります。
例えば、医療機器の選定に関与する医師が、特定のメーカーの製品を採用する見返りとして現金を受け取れば、収賄罪が問題となります。
賄賂は現金に限られません。飲食接待や旅行費用の負担なども、職務に対する見返りであれば賄賂に該当します。
また、収賄罪は、約束した便宜を実際に図っていなくても成立します。医師に最終的な購入決定権があるかどうかだけではなく、製品の選定や購入にどのような立場で関与していたかが重要です。
さらに、公立病院の医師は、刑法上の収賄罪だけでなく、公務員の倫理規程にも注意が必要です。
例えば、国家公務員倫理規程では、利害関係者から金銭や物品を受け取ることや、供応接待を受けることが原則として禁止されています。地方公務員についても、自治体ごとに接待や贈答品などに関する規程が設けられています。
収賄罪が成立しなくても、勤務先の倫理規程に違反することがあります。そのため、金銭や接待を受けた場合には、刑事責任だけでなく、勤務先の規程も確認する必要があります。
民間病院の医師は原則として刑法上の収賄罪の対象とならない
民間病院に勤務する医師は、通常、公務員には該当しません。
そのため、医療機器メーカーから金銭や接待を受けたとしても、原則として刑法上の収賄罪は成立しません。
しかし、収賄罪が成立しないからといって、金銭の授受が法律上問題にならないわけではありません。
例えば、病院に無断でメーカーから金銭を受け取り、病院に不利益を与えるような取引を行った場合には、背任罪などが問題となる可能性があります。
また、勤務先の利益相反に関する規程や倫理規程に違反した場合には、懲戒処分の対象となることもあります。
医師が医療機器メーカーから賄賂を受け取った実際の事件
医師が医療機器メーカーから金銭を受け取ったとして、収賄罪に問われた事件は実際に発生しています。
ここでは、公立病院の医師に有罪判決が言い渡された事件と、国立がん研究センターの医師に無罪判決が言い渡された事件を紹介します。
医療機器メーカーから現金を受け取り有罪となった事件
2026年3月11日、東京地方裁判所は、長野県の佐久市立国保浅間総合病院で医療機器の選定に関与していた元整形外科医長に対し、収賄罪で懲役1年2月、執行猶予3年、追徴金58万円の有罪判決を言い渡しました。
この事件では、医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」の製品を優先的に使用する見返りとして、医師側が金銭を受け取っていたことが問題となりました。
報道によると、医師には製品の使用実績に応じてポイントが付与され、飲食代などの領収書をメーカー側に送ることで、ポイントに相当する現金を受け取る仕組みが設けられていました。
裁判所は、医療機器を選定する立場を利用して長期間にわたり金銭を受け取ったことを問題視し、公的医療への信頼を損なう行為であると指摘しました。
この事件は、医療機器の使用実績に応じてメーカーから個人的に利益を受け取る行為が、収賄罪として処罰される可能性があることを示しています。
参考:MEDIFAX digest「元整形外科医長ら有罪判決 佐久市立病院の贈収賄事件」
医療機器メーカーから約300万円を受け取り無罪となった事件
一方、医療機器メーカーから金銭を受け取ったものの、収賄罪の成立が認められなかった事件もあります。
2026年2月6日、東京地方裁判所は、国立がん研究センター東病院の元医長に対し、収賄罪について無罪判決を言い渡しました。
この事件では、医師が医療機器メーカーから約300万円を受け取ったことについて、特定の医療機器を優先的に使用する見返りとして支払われた賄賂ではないかが争われました。
しかし、裁判所は、医師が医療機器の有効性や安全性を確認する調査を実際に行い、相応の時間を費やしていたことなどを認定しました。
そのうえで、医師が受け取った金銭について賄賂であるとの認識があったとは認められないとして、無罪と判断しました。
この判決からも、医療機器メーカーから金銭を受け取ったという事実だけで、直ちに収賄罪が成立するわけではないことが分かります。
金銭の支払われた目的や業務の実態、医師の認識などを具体的に検討する必要があります。
参考:東京地方裁判所令和8年2月6日判決(裁判所公式PDF)
医療機器メーカーから金銭を受け取っても収賄罪にならない場合

医師が医療機器メーカーから金銭を受け取ったとしても、そのすべてが賄賂に該当するわけではありません。
例えば、講演や研究、医療機器の使用成績調査など、実際に行った業務に対する正当な報酬であれば、収賄罪が成立しません。
ただし、契約書に「講演料」「研究費」「調査報酬」などと記載されているだけで、適法と判断されるわけではありません。
重要なのは、金銭の名目ではなく、実際にどのような業務を行い、何に対する対価として支払われたのかという点です。
実際の業務に対する正当な報酬である場合
医師がメーカーから依頼された講演や研究、医療機器の調査などを実際に行い、その業務に見合った報酬を受け取った場合には、賄賂に該当しない可能性があります。
例えば、医療機器の使用成績調査では、製品の安全性や有効性に関する情報を収集するため、医師が調査に協力し、報告書を作成することがあります。
こうした業務について、実際の調査内容や作業量に応じた報酬が支払われている場合には、正当な対価と評価される余地があります。
もっとも、調査の実態が乏しい場合や、報酬の実質的な目的が製品の採用に対する見返りである場合には、収賄罪が問題となる可能性があります。
医師に賄賂を受け取る認識がなかった場合
収賄罪の成立には、医師が職務に関する賄賂を受け取ることについて、故意が認められる必要があります。
そのため、医師が正当な業務の報酬として金銭を受け取ったと認識しており、賄賂であるとの認識が認められない場合には、収賄罪が成立しないことがあります。
実際に、前述の国立がん研究センターの事件では、医師が調査業務を行っていたことなどを踏まえ、収賄の故意が認められないとして無罪判決が言い渡されています。
ただし、単に「賄賂だとは思っていなかった」と説明すればよいわけではありません。
契約の経緯や業務内容、報酬額、メーカーとのやり取りなどの客観的な事情から、医師が金銭の性質をどのように認識していたかが判断されます。
医療機器メーカーとの金銭の授受について収賄罪が疑われている場合には、契約書や調査記録、メールなどを確認し、正当な報酬であることを裏付ける事情を整理することが重要です。
医師が収賄罪に問われた場合の刑罰
医師に収賄罪が成立した場合、金銭を受け取った経緯や職務上の不正行為の有無などによって、適用される罪名や刑罰が異なります。
| 罪名 | 法定刑 |
|---|---|
| 単純収賄罪 | 5年以下の拘禁刑 |
| 受託収賄罪 | 7年以下の拘禁刑 |
| 加重収賄罪 | 1年以上の有期拘禁刑 |
| 贈賄罪(メーカー側) | 3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金 |
単純収賄罪・受託収賄罪
単純収賄罪は、公務員が職務に関して賄賂を受け取ったり、その要求や約束をしたりすることで成立する犯罪です。
さらに、特定の職務行為を依頼され、その依頼を受けて賄賂を受け取った場合には、受託収賄罪が成立する可能性があります。
例えば、医療機器メーカーから特定の製品を採用するよう依頼され、その見返りとして金銭を受け取った場合などが考えられます。
加重収賄罪
賄賂を受け取ったうえで、職務上の不正行為をした場合などには、加重収賄罪が成立する可能性があります。
単に金銭を受け取った場合よりも重い刑罰が定められているため、医師が実際にどのような職務行為を行ったのかが重要になります。
また、収賄事件では、受け取った賄賂が没収されるほか、没収できない場合には、その価額を追徴されます。
なお、金銭を提供した医療機器メーカーの担当者についても、贈賄罪による刑事責任が問題となります。
収賄罪で有罪になると医師免許は取り消される?
医師が収賄罪で有罪判決を受けた場合、刑事罰とは別に、医師免許に関する行政処分を受ける可能性があります。
医師法第4条第3号では、罰金以上の刑に処せられた者について、医師免許を与えないことがあると定めています。
また、医師法第7条では、同法第4条各号に該当する場合や、医師としての品位を損なう行為があった場合に、行政処分を行うことができるとされています。
行政処分には、次の3種類があります。
- 戒告
- 3年以内の医業停止
- 医師免許の取消し
収賄罪で有罪になったからといって、必ず医師免許が取り消されるわけではありません。
行政処分の内容は、違反行為の性質や重大性などを踏まえて個別に判断されます。
また、執行猶予付きの有罪判決であっても、行政処分の対象となる可能性があります。
医師免許に関する行政処分は、厚生労働大臣が医道審議会の意見を聴いたうえで行います。
そのため、刑事事件への対応だけでなく、その後の医道審議会による行政処分も見据えて対応することが重要です。
収賄事件では勤務先から懲戒処分を受ける可能性もある

医師が医療機器メーカーから賄賂を受け取った場合、刑事罰や医師免許への影響だけでなく、勤務先での処分も問題となります。
公務員の身分を有する医師であれば、地方公務員法などに基づき、免職や停職などの懲戒処分を受ける可能性があります。
また、民間病院の医師であっても、勤務先の就業規則や倫理規程に違反した場合には、懲戒処分の対象となることがあります。
特に、医療機器の採用や購入に関わる立場にある医師が、メーカーから個人的に金銭を受け取っていた場合には、勤務先との信頼関係にも重大な影響を及ぼしかねません。
収賄事件では、刑事処分の結果だけでなく、医師としての職業生活への影響も考慮する必要があります。
医療機器メーカーから金銭を受け取ってしまった場合の対応
医療機器メーカーから受け取った金銭について、収賄罪に該当する可能性がある場合には、事実関係を正確に整理することが重要です。
まず、金銭を受け取った日時や金額、支払いの名目、メーカーとのやり取りなどを確認しましょう。
契約書やメール、振込記録などの資料が残っている場合には、削除したり改変したりせず、そのまま保存しておく必要があります。
また、問題となる金銭をメーカーに返還したとしても、それだけで収賄罪の成立が否定されるわけではありません。
すでに警察の捜査が始まっている場合には、取調べでの供述が刑事処分に影響する可能性もあります。
医師の収賄事件では、刑事責任だけでなく、医師免許への影響まで見据えた対応が必要です。
不安がある場合には、捜査が本格化する前の段階から、刑事事件に詳しい弁護士に相談することを検討しましょう。
まとめ|医師の収賄事件では刑事処分と医師免許への影響に注意
医師が医療機器メーカーから金銭や接待を受けた場合、公務員としての身分や職務との関連性などによっては、収賄罪が成立する可能性があります。
特に、公立病院などで医療機器の選定や購入に関与する医師が、メーカーから個人的に謝礼を受け取っていた場合には注意が必要です。
収賄罪が成立すると、拘禁刑などの刑事罰を受ける可能性があるだけでなく、医師免許の取消しや医業停止、勤務先での懲戒処分が問題となることもあります。
一方で、医療機器メーカーから金銭を受け取ったという事実だけで、直ちに収賄罪が成立するわけではありません。
医師の法的な身分や金銭授受の経緯、職務との関連性などを慎重に検討する必要があります。
医療機器メーカーとの金銭の授受について不安がある場合には、早い段階で弁護士に相談し、刑事事件と行政処分の両面から適切な対応を検討することが重要です。
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【記事監修】

弁護士 須賀翔紀
須賀法律事務所 代表弁護士。刑事事件を中心に、幅広い法律分野の相談・依頼に対応。相談者の不安や悩みに丁寧に耳を傾け、状況に応じた解決策を提案。専門的な内容も分かりやすく説明し、迅速かつ誠実な対応を重視。オンラインでの相談・依頼にも対応し、全国からの相談を受け付けている。

