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2023/11/26 コラム

略式起訴とは何か?判決が決定したら前科がつくのか?略式起訴の要件とは

陪審員と裁判官のイラスト(木槌あり)

略式起訴とは「罰金刑を前提に裁判を省略する手続き」

 

略式起訴とは、通常の起訴手続きを簡略化し、裁判を開かずに書面審査のみで罰金刑を言い渡す制度です。

そのため、被疑者が罪を認めている軽微な事件について、迅速に処理されるという特徴があります。


しかし、有罪判決として扱われるため、結果的に前科がついてしまいます。

 

決定された金額は納める時期や場所を指定されるため、指定通りに罰金や科料を納めれば刑の執行が完了します。時期や場所の指定の命令を、略式命令と言います。

 

起訴された時点で「有罪判決が確定する」ため、前科がつきます。

 

 

略式起訴の3つのポイント

 

①簡易裁判所の管轄事件であること

略式起訴の対象となるのは、暴行や万引きなどの軽微な犯罪です。
このような事件は簡易裁判所の管轄となり、罰金刑や科料に相当する場合のみ適用されます。

 

100万円以下の罰金・科料であること
懲役刑や禁錮刑にあたる重大事件では、略式手続は使えません。
そのため、あくまで軽い犯罪に限定されているのです。

被疑者が異議を唱えないこと
略式起訴は、被疑者が罪を認め、罰金の支払いに同意していることが前提です。
もし異議がある場合は、正式な裁判を求めることができます。
このように、同意の有無が大きな分かれ道となります。

 

通常の起訴との違いは?

 

項目 略式起訴 通常起訴(正式裁判)
対象事件 軽微な事件(暴行・万引きなど) 重大事件も含む
裁判の有無 裁判なし(書面審査のみ) 裁判あり(公判)
被告人の同意 必要 不要
判決の種類 罰金刑のみ 懲役・執行猶予などもあり
判決確定までの期間 約1〜2週間 数か月〜1年以上
前科 つく(有罪判決) つく(有罪判決)
メリット 早く終わる・拘束が短い 弁護活動で争える
デメリット 不服申し立てが難しい・前科がつく 時間と費用がかかる

 

このように、略式起訴は手続が早い反面、前科が確定するリスクがあります。
そのため、軽い処分と考えて安易に同意するのは危険です。

【重要】略式起訴でも前科はつく

略式起訴による罰金刑は、有罪判決と同じ効力を持ちます。
つまり、正式な裁判を経ずに前科が確定するのです。


特に注意すべき点は、罰金の支払いが「前科の確定時点」になることです。
なお、起訴猶予や不起訴処分になった場合は、前科にはなりません。

もし罰金を支払わなかった場合、労役場留置という制度により、刑事施設で労働を行う必要があります(刑法18条)


このような結果を避けるためにも、早めの対応が重要です。

● 関連記事内部リンク

👉 罰金刑に前科はつくのか?支払えなかった場合どうなるのか?

 

 

〇前科がつくとどうなる?生活への影響

前科がつくと、就職や資格取得など日常生活にも影響します。

 

就職・転職:   公務員・金融業界などで不利に働く可能性あり

資格・免許:   医師・教員・宅建士などの資格制限に影響

再犯時の量刑:  前科があると重くなる傾向

 

前科を避けたい場合は、起訴前に示談を成立させることが極めて重要です。

 

詳しくはこちら

👉 前科がつくとどのようなデメリットがあるのか?

 

今すぐできる略式起訴への対処法

略式起訴の通知が届いた、あるいは略式命令を受けた場合でも、前科を防ぐためにまだできる対応はあります。焦らず、次の3つのステップを確認してください。

 

1.略式起訴の通知が届いたら、まず何をすべき?

 すぐに弁護士へ相談し、手続きの段階と選択肢を確認しましょう。

略式起訴は「書面だけで有罪判決が出る」手続きです。
しかし、通知が届いてから14日以内であれば正式裁判を請求できる場合があります。(刑事訴訟法465条)


まずは弁護士に相談し、

  • 事件がどの段階にあるか

  • 罰金額や証拠内容が妥当か

  • 略式で終えるべきか争うべきか

を一緒に判断しましょう。

14日はいつからカウント?

この14日間は「略式命令を告知された日(受け取った日)から起算されます。郵送で届く略式命令は通常「特別送達」で郵便局員が手渡しで送付されます。

 

不在の場合は郵便局での保管期間満了日に到達とみなされます。

その日から土日祝を含めて14日以内に正式裁判請求書を提出すれば有効です。

郵送の場合は消印日が期限内であればOKとされるケースもあります。

 

期日を過ぎると罰金刑が確定し、前科が残るため、受け取ったらすぐに弁護士へ相談するのが最善です。

 

2. 略式起訴を回避する方法はある?

示談の成立や反省状況を検察官に示すことで、起訴猶予・不起訴の可能性があります。

略式起訴は軽微な事件を対象としていますが、被害者との示談や反省が十分に認められた場合には、検察官が「不起訴処分」または「起訴猶予」に切り替える・罰金を軽減したりするケースがあります。

略式起訴の回避を目指すには、

  1. 弁護士を通じた誠実な示談交渉

  2. 被害弁償・謝罪文の提出

  3. 再犯防止策の提示(職場・家庭での環境改善)
    が有効です。

 

自分で交渉しようとすると逆に不利になるケースもあるため、弁護士が入ることが重要です。

3. 罰金が決まる前に弁護士ができることは?

証拠内容の確認、正式裁判請求の検討、処分軽減交渉など多岐にわたります。

略式起訴で罰金が決まる前に弁護士が介入すれば、

  • 証拠の内容を精査し、誤認逮捕や供述の誤りを指摘

  • 正式裁判請求(14日以内)によって前科確定を防止

  • 被害者との示談を成立させて罰金額を軽減
    などの対策が可能です。

また、略式命令後でも一部のケースでは再検討を求める余地があります。
早ければ早いほど選択肢が広がるため、通知を受けた段階での弁護士相談が極めて重要です。

略式起訴は「軽い処分」ではなく、れっきとした有罪判決(前科)です。


しかし、早期に専門弁護士が介入すれば、不起訴処分や罰金軽減の余地が残ることもあります。
通知を放置せず、受け取ったその日中に弁護士へ相談してください。

 

よくある質問(FAQ)


Q.略式起訴と不起訴の違いは?

A.略式起訴は有罪判決として罰金・科料が科され、結果として前科がつきます。一方で、不起訴は処分なしのため前科はつきません。つまり、「略式=有罪」「不起訴=前科なし」です。

Q.略式起訴の罰金を払わないとどうなりますか?

A.支払わない場合、まずは財産の強制徴収が行われます。さらに、なお未納なら労役場留置(刑法18条)となり、原則1日あたり約5,000円換算で刑事施設内の労働に充てられます。そのため、期限内の納付が重要です。

Q.略式起訴を拒否できますか?

A.はい、可能です。被疑者が同意しなければ正式裁判に移行します。ただし、証拠や供述を法廷で争う手続きが必要になるため、早めに弁護士と方針を検討することが不可欠です。

Q.略式起訴の前に示談をすれば回避できますか?

A.場合によっては回避可能です。被害者との示談が成立し、反省状況などが認められれば、検察官が起訴猶予や不起訴とすることがあります。したがって、早期に弁護士を通じて誠実な示談交渉を進めることが有効です。

Q.前科はいつ消えますか?

A.法的に前科を「消す」制度はありません。もっとも、実務上は履歴書等で問われる期間が5〜10年の目安とされます。つまり、時間の経過で社会的影響は相対的に薄まりますが、法的抹消はできません。

まとめ:略式起訴を「軽い処分」と思い込むのは危険です

略式起訴は、軽微な事件を迅速に処理するための制度です。
しかし、罰金刑であっても「有罪判決」となり、前科が確定するという重大な結果をもたらします。
つまり、「短期間で終わる=軽い処分」ではありません。

また、略式命令が出た後でも、14日以内であれば正式裁判を請求できる場合があります。


さらに、被害者との示談成立や反省の意思の提示によって、検察官が「起訴猶予」や「不起訴」とする可能性も残されています。
このように、対応の早さと適切な弁護活動が結果を大きく左右します。

もし通知や呼び出しが届いた場合は、焦って罰金を払う前に弁護士へ相談してください。

 

略式起訴は「早く終わる」反面、「前科が残る」という一方通行の手続きです。
そのため、早期相談こそが唯一のリスク回避策といえます。
迷ったら、まず刑事事件に詳しい弁護士へご相談ください。

この記事の執筆者

須賀 翔紀(弁護士)の写真

須賀 翔紀(弁護士)

須賀事務所 代表弁護士。刑事弁護・犯罪被害者支援を専門とし、これまでに500件以上を担当。

監修

須賀法律事務所

初出掲載:2023年11月26日
最終更新日:2025年10月20日

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