2025/04/07 コラム
一人で抱えないで|個人事業主のためのカスタマーハラスメント完全対応マニュアル
個人事業主として接客やサービス業をしていると、「クレーム」に直面することは避けられません。しかし、中には明らかに行き過ぎた言動や、常識を逸脱した要求をしてくる顧客も存在します。それが「カスタマーハラスメント(通称:カスハラ)」です。
「お客様は神様」だから我慢しないと…と感じている方もいるかもしれませんが、時代は変わりつつあります。企業だけでなく、個人事業主も自分のビジネスと心を守るために、毅然とした対応が求められています。
2025年4月には、東京都で「カスタマーハラスメント防止条例」も施行され、社会全体としても「カスハラは許さない」という姿勢が強まっています。
この記事では、ひとりでビジネスをしているあなたが、法的に対応するために知っておくべき知識と具体的な手順を解説していきます。
【そのクレーム、もしかして犯罪かもしれません】
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、たとえ相手が「顧客」であっても、行き過ぎればれっきとした犯罪行為として処罰される可能性があります。
「個人でやってるんだから多少は仕方ない」と思って我慢していませんか?
その態度が、逆に相手をエスカレートさせてしまうこともあります。
▶ よくあるカスハラと、それが違法になるケース
(1)暴行・傷害などの身体的な攻撃
実際に合った事例:
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賃貸保証会社の社員の首元を掴み壁に押し付ける
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鉄道係員に体当たり・頭突き
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酔客が鉄道職員に殴りかかる
→ 法的には?
これらは暴行罪(刑法208条)や傷害罪(204条)に該当。たとえケガをさせていなくても暴行罪は成立します。悪質なケースでは逮捕・起訴される可能性も十分にあります。
(2)暴言・脅迫などの精神的な攻撃
実際に合った事例:
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「死ね」「使えねぇな」「早くやれ」などの暴言・怒鳴り声(鉄道、食品業など)
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「首を洗って待ってろ」「ぶっ殺すぞ」などの発言
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SNSで「この店は最悪」「詐欺商売」などと書き込む
→ 法的には?
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状況によっては脅迫罪(刑法222条)や侮辱罪(231条)に該当します。
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SNS投稿が事実無根であれば名誉毀損罪(230条)、業務妨害罪(234条)になる可能性も。
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特に「殺す」「潰す」といった強い言葉は、相手に恐怖心を与えるため脅迫罪の成立要件を満たしやすいです。
(3)不当な要求
実際に合った事例:
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土下座を強要する(アパレル)
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過度なケアを求める(介護施設)
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清掃の立ち会いや部屋のグレードアップを求める(ホテル)
→ 法的には?
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強要罪(刑法223条)に該当する可能性があります。
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名誉を著しく傷つけた場合は名誉毀損罪も。
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社員に土下座させた行為などは、後に損害賠償請求の対象になるケースもあります。
(4)継続的・執拗な言動
実際に合った事例:
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無言電話を100回以上かける
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電話やDMで苦情をしつこく送り続ける
→ 法的には?
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威力業務妨害罪やストーカー規制法違反が成立することも。
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たとえ個人でなく企業が相手でも、執拗な嫌がらせは違法行為として処罰される可能性があります。
(5)拘束的な行動
実際に合った事例:
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6時間にわたる長電話(市役所)
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配達員を真夏の炎天下で長時間説教(運送会社)
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営業時間外に押しかけたり、何度も出入りする
→ 法的には?
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不退去罪(刑法130条)、住居侵入罪、業務妨害罪に該当することも。
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営業妨害だけでなく、従業員の健康や命に関わる問題になるケースもあります。
クレームと違法行為の線引きを知ろう
「謝罪しろ」「責任者を出せ」という発言が、
単なる要望を超えて威圧的になった瞬間に“犯罪”へ変わる可能性があります。
特に、
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精神的苦痛を与える発言や態度
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長時間の拘束や執拗な要求
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社会的評価を貶める行為
これらは、すべて法律で取り締まることが可能です。
【 法的対応には記録が命】
カスハラに対して「法的な対応を取る」と決めたとしても、それを裏付ける証拠がなければ、何も始まりません。
弁護士も、警察も、裁判所も、「あなたがどれほどつらかったか」ではなく、「それを証明できるものがあるか」で動きます。
■ どんな記録が必要か?
✅会話の録音
→スマホの録音アプリでOK。相手に無断でも基本的には違法になりません。
→「怒鳴り声」「土下座要求」などは、音声があると非常に強力な証拠になります。
✅LINEやメールのやり取り
→相手からの無理な要求や誹謗中傷の言葉をそのまま保存。
→スクリーンショット+原データ(トーク画面)での保管がベストです。
✅SNSの投稿・口コミサイトの内容
→「悪質レビュー」も、証拠としてスクショ保存。相手が削除しても大丈夫なように、日時つきで記録しましょう。
✅メモや日報
→接客中のやり取りをすぐにメモ。「○月×日、午後3時頃、○○様から“殺すぞ”と発言された」など、できるだけ正確に記録しておきましょう。
✅防犯カメラの映像
→店内に設置していれば、警察に提出できる客観的な証拠になります。
■ 記録のポイントは「客観性」と「時系列」
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できるだけ感情を交えず、客観的に事実を記録
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時間・場所・相手の言動・自分の対応をセットで残す
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できれば複数の証拠を組み合わせると強力です(例:録音+LINEの内容)
「ちょっと過剰だったな」レベルでも、“おかしい”と思った瞬間から記録をスタートしておくと、万が一のときに大きな助けになります。
記録は、将来の法的対応だけでなく、「自分の心を守る」ことにもつながります。つらい出来事を“外に出す”ことができるだけで、心理的な安心にもつながります。
【弁護士・警察に相談するタイミングは?】
「本当にこんなことで相談していいのかな……」
カスハラに悩む多くの個人事業主が、そう感じています。しかし、「迷ったら相談」が基本です。法的なトラブルは、早めの対処ほど被害を抑えられる傾向があります。
■ 警察に相談・通報すべきタイミング
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実際に暴言・暴力・脅迫があった
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お客様が退店を拒否して長時間居座った
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自宅や店舗に押しかけてきた
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ストーカーのように繰り返し連絡や訪問をしてくる
これらは、明確な犯罪行為の可能性が高いです。
警察署や交番に、証拠を持って相談に行きましょう。通報する際は「カスタマーハラスメントの件で相談したい」と伝えるとスムーズです。
■ 弁護士に相談すべき場面とは?
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顧客とのやり取りで明らかに脅迫や名誉棄損にあたる言動があった
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SNSやレビューサイトに虚偽の投稿や営業妨害的な書き込みがされた
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通報や警告文など、正式な書面対応を考えているとき
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相手がこちらの対応に応じず、トラブルが長期化している
弁護士は、訴訟だけでなく交渉・通知・アドバイスの専門家です。
「これって違法?」「どう対応したら相手が引く?」など、迷ったら早めに相談してみましょう。
■ 弁護士に相談する4つのメリット
🌟自分の対応に法的な裏付けが持てる
→「この対応で大丈夫?」という不安がなくなり、精神的にも安心できます。
🌟違法行為かどうか、明確な判断をしてくれる
→「訴えられる可能性があるか」「民事か刑事か」など、状況に応じて具体的に説明してくれます。
🌟相手とのやり取りを任せられる
→必要に応じて「弁護士名義での通知書」や「代理交渉」も可能。本人が直接やり取りしなくて済みます。
🌟警察・行政との連携のアドバイスも可能
→「どう通報すればいいか」「証拠は何をどうまとめればよいか」などの実務的なサポートが受けられます。
▶ 当事務所では、初回相談を【無料】で受け付けています
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「これってカスハラですか?」という軽い相談もOK
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証拠の集め方や通報のタイミングもアドバイスします
不安な気持ちを、一人で抱えず、お気軽にご相談ください。
【訴えるべきか?対応の判断基準】
「訴えるべきかどうか」は、とても難しい判断です。
特に個人事業主は、費用・時間・心理的負担などの面で慎重になる必要があります。以下のポイントを参考に、判断材料としてください。
■ 実害が発生しているか?
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SNSや口コミの投稿で売上が下がった
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他の顧客が「怖いから行きたくない」と離れてしまった
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過度な要求で営業時間に影響が出た
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精神的に追い詰められて、体調や業務に支障が出た
これらが認められる場合は、損害賠償請求など民事訴訟も視野に入ります。
■ 相手の言動が「明確に違法」と言えるか?
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第三者が見ても「これはひどい」と言えるレベルの暴言・脅迫・業務妨害がある
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こちらの対応に非がないにも関わらず、執拗に攻撃されている
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弁護士が「違法性が高い」と判断した場合
この場合は、警察への告訴や刑事事件としての手続きも可能になります。
■ 費用・手間・今後の関係性をどう考えるか?
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損害が軽微で、相手との関係を完全に断ち切れるなら「注意・拒否」で済ませるのも選択肢
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一方で、繰り返し被害に遭っている/今後も起こりうるリスクがある場合は、毅然とした対応が必要です
■ 弁護士に「訴えるべきか」相談して決めるのもOK
自分で判断がつかないときは、弁護士にケースを説明し、法的観点からアドバイスをもらうのが確実です。
「法的には十分訴えられる内容です」と言われれば、自信を持って進めることができます。
【個人事業主でもできるカスハラ対策マニュアル】
「マニュアルなんて大企業の話でしょ?」
そう思っている方も多いかもしれませんが、個人事業主だからこそ、自分を守る“対応のルール”を持っておくことが重要です。口頭対応に限界があるからこそ、事前に「こうされたらこうする」と決めておくことで、冷静に動けます。
■ カスハラ対応マニュアルに盛り込むべき5つのポイント
① 対応ラインを明確にする
「大声を上げたら即時対応を打ち切る」「長時間の滞在は30分で警告」など、対応の限界ラインをあらかじめ定めておきましょう。
② 返答テンプレートを用意しておく
過剰要求に対しては、「当方の方針により対応できかねます」「第三者機関に相談させていただきます」といった定型フレーズを準備しておくと便利です。
③ 記録・証拠を取る習慣を日常化
日報アプリやボイスメモを使って、日々のやり取りを簡単にいつでも記録できるようにしましょう。慣れると5分で済みます。
④ 相談先リストを整備しておく
弁護士事務所(当事務所含む)、警察署、行政の相談窓口などを一覧にまとめ、すぐアクセスできるようにしておくと安心です。
⑤ 感情的にならず、冷静な姿勢を保つ
カスハラ相手は「感情を揺さぶって対応を引き出す」のが常套手段です。マニュアルがあれば、一歩引いて冷静に対応できます。
こうしたマニュアルは、ノートやメモアプリに書き出すだけでも十分効果があります。定期的に見直し、自分に合った対応方法にブラッシュアップしていきましょう。
【日常の法務もサポート!個人事業主向け顧問サービス】
カスハラのようなトラブルだけでなく、日々の業務にも法的な不安はつきものです。
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契約書の内容に不安がある
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お客様とのやり取りでトラブルが起きた
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インターネットで悪質な書き込みをされた
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法律的に正しい対応が分からない
こうしたとき、「いつでも相談できる弁護士」がそばにいると、とても安心です。
💼 当事務所では、個人事業主の方向けに顧問・企業法務サービスもご提供しています。
▶ 顧問契約のメリット
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ちょっとした相談でも気軽に連絡できる
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早期対応でトラブルを未然に防げる
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書類作成やチェックもおまかせできる
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カスハラなどのクレーム対応も一貫サポート
📩 顧問契約についてのご相談や、詳細についてはこちらからお問い合わせください。
【 まとめ:あなたのビジネスと心を守るために】
カスタマーハラスメントは、誰にでも起こり得る現実的なリスクです。特に個人事業主は、守ってくれる組織がないからこそ、「備え」と「判断力」がすべてになります。
しかし逆に言えば、正しい知識と準備さえあれば、
ひとりでも法的に堂々と立ち向かうことができます。
💡日々のやり取りを記録しておく
💡対応マニュアルを作っておく
💡早めに弁護士に相談する
この3つのステップが、あなたとあなたのビジネスを守る土台になります。