2026/10/26 コラム
弁護士に嘘をつくとどうなる?刑事事件で事実を隠すリスク

刑事事件で弁護士に相談するとき、「不利な事実は話したくない」「本当のことを話したら弁護してもらえないのでは」「警察に通報されるのでは?」と不安に感じる方もいるでしょう。しかし、弁護士に嘘をついて事実と異なる説明をしたり、重要な情報を隠したりすると、適切な弁護方針を立てられず、かえって不利な状況につながるおそれがあります。弁護士は、依頼者から聞いた内容や客観的な証拠をもとに、事件の見通しや今後の対応を検討します。そのため、たとえ自分に不利な事情であっても、正確に伝えることが重要です。
この記事では、刑事事件で弁護士に嘘をつくことで生じるリスクや、後から新たな事実が判明した場合の影響、弁護士に正直に話すべき理由について解説します。
1. 弁護士は依頼者の味方|守秘義務があるため不利な事実も相談できる
刑事事件で弁護士に相談する際、「犯罪を認めたら弁護してもらえないのではないか」「本当のことを話したら警察に通報されるのではないか」と不安に感じる方もいるでしょう。
弁護士には法律上の「守秘義務」があります。
弁護士法23条では、弁護士は職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定められています。
そのため、たとえ依頼前であっても弁護士に打ち明けた内容が警察・検察または第三者に伝えられるわけではありません。
弁護士は被疑者・被告人の権利や利益を守る立場にあります。
例えば、被害者との示談交渉や逮捕・勾留への対応、刑事処分の軽減に向けた活動など、弁護士ができることはさまざまです。弁護士に不利な事実を話したからといって、依頼者にとって不利になるような弁護はしません。
弁護士は、依頼者にとって不利な事実も含めて正確な事情を把握することで、適切な弁護方針を検討できます。
自分に不利な事実を隠すのではなく、まずは弁護士にありのままの事情を伝えることが大切です。
2. 弁護士に嘘をつくとどうなる?刑事事件で生じるリスク

刑事事件で弁護士に嘘をついたからといって、それだけで直ちに犯罪が成立したり、有罪になったりするわけではありません。
しかし、弁護士に虚偽の説明をしたり、重要な事実を意図的に隠したりすると、弁護活動にさまざまな支障が生じる可能性があります。
弁護士は、依頼者の説明だけでなく、証拠や事件の状況を確認しながら弁護方針を検討します。そのため、依頼者から提供された情報が事実と異なっていると、適切な対応が難しくなることがあります。
① 適切な弁護方針を立てられなくなる
弁護士は、依頼者から事件の経緯や当時の状況を詳しく聞き取り、証拠関係を確認したうえで、今後の弁護方針を検討します。
例えば、犯罪の成立を争うべきか、被害者との示談交渉を進めるべきか、逮捕・勾留を避けるためにどのような対応が必要かなど、事件の内容に応じて方針を判断します。
しかし、依頼者が自分に不利な事実を隠したり、実際とは異なる説明をしたりすると、弁護士は正確な事情を把握できません。その結果、本来必要だった証拠の確認や、早期に行うべき対応が出来ないおそれがあります。
弁護士が適切な弁護活動を行うためには、依頼者にとって不利な事実も含め、事件に関する情報を正確に共有することが重要です。
② 後から嘘が発覚すると弁護方針の変更が必要になる
弁護活動を開始した後に、当初の説明と異なる事実や、これまで伝えられていなかった別の犯罪事実が判明することがあります。
このような場合、弁護士は新たに判明した事情を踏まえて、弁護方針を見直さなければなりません。
例えば、依頼者から一つの事件についてのみ相談を受けていたものの、後になって別の犯罪への関与が明らかになった場合です。新たな犯罪事実によって、捜査の対象や今後の刑事手続に影響が生じる可能性があるため、弁護士は事件全体の状況を改めて確認する必要があります。
また、すでに捜査機関へ意見書を提出していたり、被害者との示談交渉を進めていたりする場合には、それまでの説明や対応との整合性を確認し、必要に応じて方針を修正しなければなりません。
刑事事件では、逮捕・勾留に関する判断など、限られた時間の中で対応が求められる場面もあります。重要な事実が後から判明すると、十分な準備や検討の時間を確保できなくなるおそれがあります。
弁護方針の変更自体が必ずしも不利益になるわけではありませんが、重要な事実を隠していたことで、早い段階で取れたはずの対応が難しくなる可能性があります。
③ 証拠や供述との矛盾が生じるおそれがある
刑事事件では、依頼者本人の説明だけでなく、防犯カメラの映像、通話履歴、メッセージのやり取り、目撃者の証言など、さまざまな証拠をもとに事実関係が確認されます。
そのため、弁護士に事実と異なる説明をしていると、後から客観的な証拠が見つかった際に、説明との矛盾が明らかになることがあります。
例えば、事件当日に被害者と会っていないと説明していたにもかかわらず、実際には会っていたことを示す記録が見つかった場合です。
弁護士が事前に正確な事情を把握していれば、記録の内容や事件との関係を確認し、適切な対応を検討できます。しかし、虚偽の説明を前提に準備を進めていた場合には、事実関係の再確認や弁護方針の見直しが必要になります。
また、捜査機関に対しても事実と異なる説明をしていた場合、供述の信用性が問題となる可能性があります。
ただし、説明と証拠に食い違いがあるからといって、必ずしも嘘をついているとは限りません。記憶違いや認識の相違によって、説明が異なることもあります。
記憶が曖昧な部分は無理に断定せず、覚えていることと分からないことを区別して弁護士に伝えることが大切です。
④ 弁護士との信頼関係が損なわれる場合がある
弁護士と依頼者の信頼関係は、適切な弁護活動を進めるうえで重要です。
弁護士は依頼者の利益を守るために活動しますが、そのためには依頼者から正確な情報を提供してもらい、必要な連絡や打ち合わせに協力してもらう必要があります。
しかし、依頼者が繰り返し嘘をついたり、重要な事実を意図的に隠したりすると、弁護士は提供された情報を前提に活動を進めることが難しくなります。
また、弁護士からの連絡に応じない、打ち合わせの約束を守らないといった行為も、弁護活動に支障を生じさせる原因となります。
弁護士職務基本規程43条では、依頼者との信頼関係が失われ、その回復が困難な場合、弁護士は事情を説明し、辞任その他の事案に応じた適切な措置を取らなければならないと定めています。
そのため、虚偽の説明などによって信頼関係が著しく損なわれた場合には、弁護士が辞任する可能性もあります。
この場合、すでに支払った着手金が全額返金されないことが多いです。返金の有無や金額は、契約内容やそれまでの弁護活動などによって異なります。
さらに、新しい弁護士に依頼する場合には、改めて着手金が必要になります。新しい弁護士への事情説明や資料の引継ぎにも時間がかかるため、事件への対応に影響するおそれがあります。
弁護士との信頼関係を維持するためにも、不利な事情を隠さず、正確な情報を伝えることが重要です。
⑤ 弁護士は嘘と知りながら虚偽の証拠を提出できない
弁護士は依頼者の利益を守る立場にありますが、依頼者の希望であれば、どのような弁護活動でも行えるわけではありません。
弁護士職務基本規程75条では、弁護士が偽証や虚偽の陳述をそそのかしたり、虚偽と知りながら証拠を提出したりすることを禁止しています。
例えば、依頼者が実際には事件現場にいたにもかかわらず、「その時間は別の場所にいたことにしてほしい」と弁護士に頼んだとしても、弁護士はその嘘に合わせて虚偽の証拠を提出することはできません。
また、依頼者が提出した資料について、弁護士が虚偽であると認識した場合には、その資料を証拠として提出することはできません。
ただし、依頼者が容疑を否認していることや、弁護士と事実関係の認識が異なることだけで、虚偽の説明をしていると判断されるわけではありません。
弁護士は、依頼者の主張と客観的な証拠を確認しながら、法律上認められた方法で弁護活動を行います。
そのため、弁護士に自分の希望する主張をしてもらうために事実を隠したり、嘘の説明をしたりするのではなく、正確な事情を伝えたうえで、どのような弁護が可能か相談することが重要です。
まとめ
刑事事件で弁護士に嘘をついたり、重要な事実を隠したりすると、適切な弁護方針を立てられなくなるおそれがあります。また、後から虚偽の説明や新たな犯罪事実が判明した場合には、それまでの弁護方針を見直さなければならず、事件への対応に支障が生じる可能性があります。
さらに、繰り返し虚偽の説明をすることで弁護士との信頼関係が損なわれ、場合によっては辞任につながることもあります。その際、すでに支払った着手金が全額返金されるとは限らず、新しい弁護士への依頼で追加の費用や時間が必要になることもあります。
一方、弁護士は被疑者・被告人の権利や利益を守る立場にあり、法律上の守秘義務を負っています。犯罪への関与を認めている場合でも、弁護を受けることはできます。
弁護士にとって重要なのは、依頼者に有利な話だけを聞くことではなく、不利な事情も含めて正確な事実関係を把握することです。
適切な弁護活動を受けるためにも、嘘や隠し事をせず、弁護士にありのままの事情を伝えることが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 弁護士に嘘をついたら罪になりますか?
弁護士に嘘をついたというだけで、犯罪が成立するわけではありません。
ただし、嘘の内容やその後の行為によっては、別の犯罪が問題となる場合があります。例えば、他人に刑事処分を受けさせる目的で、虚偽の犯罪事実を警察などに申告した場合には、虚偽告訴罪(刑法172条)が成立する可能性があります。
Q2. 弁護士に本当のことを話したら、警察に通報されますか?
弁護士には、弁護士法23条に基づく守秘義務があります。そのため、犯罪に関する不利な事実を打ち明けたからといって、その内容が当然に警察や検察へ伝えられるわけではありません。
この守秘義務は、正式に依頼する前の法律相談で知り得た秘密にも及びます。
ただし、守秘義務には法律上の例外もあるため、どのような場合でも秘密が外部に伝わらないと保証されるものではありません。
Q3. 弁護士に嘘をついたことが後からバレたら、辞任されますか?
嘘が発覚したからといって、必ず弁護士が辞任するわけではありません。
しかし、繰り返し虚偽の説明をしたり、重要な事実を意図的に隠したりして、弁護士との信頼関係が回復困難なほど損なわれた場合には、辞任につながる可能性があります。
また、弁護士が辞任した場合でも、支払った着手金が全額返金されるわけではありません。返金の有無や金額は、委任契約の内容やそれまでの弁護活動などによって異なります。
Q4. 弁護士に嘘をついてしまった場合、途中で本当のことを話しても大丈夫ですか?
はい。弁護士に事実と異なる説明をしてしまった場合は、できるだけ早く正確な事情を伝えることが重要です。
すでに弁護活動が進んでいる場合でも、早い段階で事実を訂正することで、弁護士が新たな事情を踏まえて今後の対応を検討できます。
また、以前の説明と異なる理由や、これまで話せなかった事情についても、できる範囲で具体的に説明しましょう。
ただし、訂正すれば必ず不利益を避けられるわけではありません。捜査機関への説明や提出済みの資料への対応については、弁護士と相談して判断することが大切です。
Q5. 依頼した後に別の犯罪が発覚した場合、弁護士に伝える必要がありますか?
別の犯罪への関与についても、できるだけ早く弁護士に伝えることが重要です。
新たな犯罪事実が判明すると、捜査の対象が広がったり、これまでの弁護方針を見直す必要が生じたりする場合があります。
また、当初の委任契約が特定の事件のみを対象としている場合、別の事件への対応には追加の契約や弁護士費用が必要になることもあります。
重要な事実を隠したままにせず、現在の事件への影響や今後の対応について弁護士と相談しましょう。
【記事監修】

弁護士 須賀翔紀
須賀法律事務所 代表弁護士。刑事事件を中心に、幅広い法律分野の相談・依頼に対応。相談者の不安や悩みに丁寧に耳を傾け、状況に応じた解決策を提案。専門的な内容も分かりやすく説明し、迅速かつ誠実な対応を重視。オンラインでの相談・依頼にも対応し、全国からの相談を受付している。

