コラム

2025/10/22 コラム

AI生成ポルノで逮捕 — ディープフェイク時代の“無断画像”被害と法的備え


2025年10月、「AIで生成された性的ディープフェイク画像」を販売したとして、男性が逮捕されました。
生成AIの急速な普及により、誰もが容易に画像を加工・生成できるようになった一方で、肖像権やプライバシーの侵害、さらには刑事責任を問われるケースも現実化しています。

本記事では、AI技術と法制度の接点、そして被害・加害の両面から考えるべき課題をわかりやすく説明しています。

 

 

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目次

     

     

    事件の概要と背景

     

    警視庁は2025年10月、生成AIを用いて女性芸能人に似せたわいせつな画像を作成し、インターネット上で販売したとして、東京都内の会社員を逮捕しました。
    容疑は「わいせつ電磁的記録媒体陳列」の疑い。
    生成AIを利用した性的ディープフェイク画像の販売が刑事事件として摘発されるのは、全国で初めてと報じられています。

    容疑者は「軽い気持ちで始めた」「違法とは思わなかった」と供述しており、AI技術と法的認識のズレが社会的議論を呼んでいます。
    (出典: TBS NEWS DIG

    本件で問題とされたのは、刑法175条に規定される

    • わいせつな電磁的記録媒体陳列

    の罪です。


    つまり、インターネット上でわいせつ画像ファイルを公開し、有償で販売していた行為

    「不特定多数に向けた陳列」と評価され、逮捕に至ったと考えられます。

    日本の運用では、性器や性交の露骨さ(モザイクの有無・程度を含む)が「わいせつ性」を左右します。

    露出・描写が強いほど175条の成立が正面から問題になるため、まずはわいせつ頒布等で立件→捜査、という流れになりやすいです。

     

    また「似ているから名誉毀損」という論点もありますが、実務的には 「わいせつ電磁的記録媒体陳列」という成立要件が明確な罪で立件した方が確実かつ迅速 であるため、警察はまず刑法175条で逮捕に踏み切ったといえます。


    さらに2025年に入ってからは、知人の顔を性的画像に加工しSNSに投稿したとして逮捕される事件も全国で相次いでおり、AI生成ポルノは著名人だけでなく一般人にも被害が拡大しています。
    (参考: 毎日新聞, 河北新報

    技術の進化が法の想定を超えるスピードで進む中、
    今回の事件は「生成AIと刑法の適用可能性」を考えるうえで象徴的な事例といえます。

    AI生成ポルノに適用される可能性のある主な罪名

    AIを使って実在人物を模した性的な画像や動画を生成し、インターネット上に公開・販売する行為は、
    内容や態様によって刑法上の複数の罪に該当する可能性があります。
    中心となるのが、「わいせつ物頒布等」(刑法第175条)です。

    ① わいせつ物頒布等(刑法第175条)

     

    【条文】

    (わいせつ物頒布等)
    第百七十五条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。
    電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
    2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

    この条文は、従来の「わいせつ物頒布罪」に電磁的記録(デジタルデータ)を含む形で2024年に改正されたものです。

    ■ 成立の要件整理

    要件 内容
    ①「わいせつな文書・図画・電磁的記録」 性的行為を具体的に描写し、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの(最判昭32.3.13)
    ②「頒布」 不特定多数または多数人に向けて販売・配布・送信すること
    ③「公然陳列」 不特定多数が閲覧できる状態で提示すること(SNS投稿・Web掲載含む)
    ④「有償目的の所持」 売買・サブスクリプション目的でデータを保持することも処罰対象

    AI生成ポルノの場合、たとえ実在人物が写っていなくても
    生成された画像が露骨に性的行為を描写していれば「わいせつ」と判断される可能性が高く
    また販売や投稿を通じて多数が閲覧できる状態であれば「公然陳列」に該当します。

     条文の位置づけと用語の整理

    • 「わいせつ物頒布等罪」とは、この175条全体を指す総称的な呼び方です。

    • 一方で、「わいせつ電磁的記録媒体陳列」はその中の一類型であり、
       具体的には「デジタルデータ(電磁的記録)」をインターネット上に公開した場合に適用されます。

    • 実務上は、行為の態様に応じて容疑名が細かく区別されることがあります。
       例えば:

      • SNSやWebサイトに投稿した場合 → 「わいせつ電磁的記録媒体陳列」

      • ダウンロード販売や配信を行った場合 → 「わいせつ電磁的記録頒布」

      • 有償目的でデータを保管した場合 → 「わいせつ物頒布目的所持」

     

    このように、「175条=包括的な規定」であり、

    報道や捜査上では実際の行為形態に合わせて呼称が変わる点を理解しておく必要があります。

     

    ② 名誉毀損罪・侮辱罪(刑法第230条・231条)

     

    実在人物の顔や身体を模した性的画像を公開する行為は、
    「その人物が性的行為を行っているように見せる」点で、社会的評価を著しく低下させるおそれがあります。
    このため、わいせつ物頒布等と併せて名誉毀損罪(230条)や侮辱罪(231条)が適用されることがあります。

    とくに生成AIでは、本人が存在しない画像でも「本人と誤認される程度の類似性」があれば、
    人格権侵害・名誉毀損の成立が認められる余地があります。

    ③ 肖像権・プライバシー侵害(民事上の不法行為)

     

    AI生成ポルノの被害者は、刑事事件化と並行して民事上の損害賠償請求を行うことができます。
    顔画像の無断使用や、性的内容への合成は、人格権侵害(肖像権・プライバシー権)に該当します。
    被害者は、

    • SNS運営者への削除要請

    • プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求

    • 損害賠償・慰謝料請求
      などを通じて権利救済を図ることが可能です。

    ④ その他の関連法令

    • 著作権法 元画像・映像を無断で加工・使用した場合に該当
    • 不正アクセス禁止法 他人のアカウント・データを不正利用して生成した場合

     

    このように、AI生成ポルノは「わいせつ物頒布等罪」を中心に、名誉毀損・侮辱罪、肖像権・プライバシー侵害、さらには著作権法や不正アクセス禁止法など複数の法律に抵触する可能性があります。


    一見すると「AIで作っただけ」と軽く考えられがちですが、実在人物の名誉や権利を深刻に侵害し、刑事責任・民事責任の双方を負うリスクが高い領域です。


    したがって、被害者・加害者いずれの立場でも「法的にどう評価されるか」を正しく理解しておくことが重要だといえます。

     

    被害者がとれる具体的な対応策

    AI生成ポルノの被害に遭った場合、放置すると画像が拡散し続け、被害が拡大してしまいます。早い段階での対応が何より重要です。ここでは代表的な救済手段を紹介します。

    1. SNSやプラットフォームへの削除依頼

    • 各SNS(X、Instagram、TikTok など)や動画サイトには「不適切コンテンツの報告フォーム」が用意されています。

    • 性的コンテンツやプライバシー侵害に関する規約に違反するケースが多いため、本人確認書類を添付して削除申請するのが効果的です。

    • 海外企業運営のプラットフォームでも、日本語での削除申請窓口が整備されつつあります。

    2. 発信者情報開示請求

    • 匿名で投稿されることが多いため、加害者を特定するにはプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求を行います。

    • これは裁判所を通じた手続きで、IPアドレスや契約者情報の開示を受け、加害者を特定して損害賠償請求につなげます。

    • 弁護士を通じて手続きを進めるのが一般的です。

    3. 警察への被害届・刑事告訴

    • 本件のように「わいせつ電磁的記録媒体陳列」に該当する場合、刑事事件として捜査される可能性があります。

    • 被害者は被害届や告訴状を提出することで、警察に正式な捜査を促すことが可能です。

    • 実際、2025年以降は全国で逮捕事例が相次いでおり、警察も被害申告に積極的に対応しています。

     

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    4. 損害賠償・慰謝料請求

    • 刑事責任とは別に、民事上は名誉毀損・肖像権侵害・プライバシー侵害を理由に損害賠償を請求できます。

    • 画像が性的内容である場合は精神的苦痛の程度が大きく、慰謝料額も高額化しやすい傾向があります。

    • 加害者が特定できれば、慰謝料・弁護士費用相当額を含めて請求することが可能です。

    5. 弁護士に相談するメリット

    • 証拠保全の方法を指導してもらえる。

    • 削除請求・開示請求・損害賠償までワンストップで対応可能。

    • 早期に動くことで、拡散を最小限に抑え、二次被害を防ぎやすくなる。

     加害者にならないためのチェックリスト

    「軽い気持ちで試した」「AIだから大丈夫」と思っても、法律上は処罰対象になることがあります。以下のチェックポイントを意識することで、思わぬ加害者リスクを防ぐことができます。

    1.実在人物の顔や体を素材に使わない

    • 芸能人・知人・一般人を問わず、無断使用は 名誉毀損・肖像権侵害 のリスク。

    2.露骨な性的表現を避ける

    • 性器や性交を露骨に描写していれば「わいせつ物」と判断されやすい。

    • モザイクや修正が不十分なら刑法175条の対象になる可能性が高い。

     

    3.SNSやWebにアップロードする前に必ずチェック

    • わいせつ性がないか? → 露骨ならアウト。

    • 実在人物に似ていないか? → 誤認されれば名誉毀損。

    • 規約違反でないか? → 法的にグレーでもアカウント停止や通報の可能性。

    4.プラットフォーム規約を必ず確認

    • 多くのサービスは「性的コンテンツ」や「ディープフェイク」を禁止。

    • 規約違反だけでアカウント削除・利用停止になる可能性がある。

    5.「ネタだから」「AIだから本物じゃない」は通用しない

    • 本人と誤認されれば、名誉毀損・肖像権侵害は成立

    • 「知らなかった」や「遊びのつもり」は免責理由にならない。

     

    FAQ(よくある質問)

    Q.AIで作った画像でも『わいせつ物』になるのですか?

    A.はい。実在の人物が写っていなくても、性器や性交の露骨な描写があれば「わいせつ物」と判断され、刑法175条の対象になる可能性があります。

    Q.芸能人に似せた画像を作ってSNSに投稿したら違法ですか?

    A.違法になるリスクが高いです。名誉毀損や肖像権侵害にあたり、社会的評価を著しく低下させると判断される可能性があります。わいせつ性があれば刑事事件化もあり得ます。

    Q.被害に遭った場合、まず何をすべきですか?

    A.すぐに削除申請と証拠保全を行うことが重要です。そのうえで、弁護士に相談し、発信者情報開示請求や損害賠償請求、警察への告訴を検討しましょう。

    Q.『遊びのつもり』で作っただけでも逮捕されますか?

    A.される可能性があります。本人が「悪意はなかった」と思っていても、頒布や公開をすれば犯罪が成立します。「知らなかった」では免責されません。

    Q.ディープフェイクなら『合成だからセーフ』ではないのですか?

    A.いいえ。たとえAIで合成された偽物の画像や動画であっても、実在人物と誤認される程度に似せていれば名誉毀損・肖像権侵害が成立する可能性があります。さらに性的に露骨な内容であれば「わいせつ物頒布等罪」に問われるリスクもあります。「偽物だから大丈夫」という理屈は通用しません。

     

     まとめ:AIと法のギャップをどう埋めるか

    今回の事件は、生成AIが社会に広がるスピードと、法制度が追いつくスピードの間に大きなギャップがあることを象徴的に示しました。

    • 技術は止められない
       AIは今後も進化を続け、誰でも容易にリアルな画像や動画を生成できる時代が来ています。

    • しかし法は追いついていない
       従来の刑法や判例をベースに無理やり適用しているのが現状で、法的な線引きはまだ曖昧です。
       その結果、利用者が「これくらいなら大丈夫だろう」と思っても、突然刑事責任を問われることがあります。

    個人にできること

    • 生成AIを使う際は「実在人物を使わない」「露骨な性描写をしない」「販売は慎重に」という基本ルールを守ること。

    • 被害を受けた場合は、泣き寝入りせず削除要請や発信者情報開示、損害賠償などの法的手続きを検討すること。

      弁護士に相談する意義

      AI生成ポルノは新しい問題領域であり、「これが完全に合法」「絶対に違法」と一概に言えないグレーゾーンが多く存在します。


      そのため、被害者であれば 削除・証拠保全・損害賠償 をどう進めるか、加害者側であれば 逮捕リスク・不起訴の可能性・示談の進め方 をどう考えるか、専門家の助言が不可欠です。

      • 弁護士に相談すれば、現在の判例・運用に基づいた具体的なリスク評価を受けられる。

      • 被害者の場合は迅速に削除要請・開示請求・慰謝料請求の流れを整えられる。

      • 加害者の場合も、早期に弁護士が介入することで不起訴や刑の軽減が見込めるケースがあります。

       

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      この記事の執筆者

      須賀 翔紀(弁護士)の写真

      須賀 翔紀(弁護士)

      須賀事務所 代表弁護士。刑事弁護・犯罪被害者支援を専門とし、これまでに500件以上を担当。

      監修

      須賀法律事務所

      初出掲載:2025年10月22日
      最終更新日:2025年10月22日

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