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2025/06/03 コラム

暴行罪でよくある相談Q&A!トラブルにならないために知っておきたいポイント

暴行罪の最大の特徴は、「ほんの些細な行為」でも成立しうる点です。
たとえば、相手に手を振り払われた、小突かれた、腕を軽くつかまれた──。
こうした行為でも、暴行罪として事件化される可能性があります。

一方で、まったく同じような状況でも「事件」として扱われないこともあり、判断が非常に難しいのも事実です。
つまり、暴行罪が成立するかどうかは、行為の内容だけでなく、当事者の関係性、被害者の受け取り方、現場の状況など、さまざまな要素に左右されます。

「警察から突然連絡が来た」「事情聴取を受けることになった」──そんなとき、何をどうすればいいのか。
この記事では、よくある相談内容をQ&A形式で解説しながら、暴行罪の基本から、刑事・民事の対応、示談や時効に関するポイントまで、弁護士の視点でわかりやすくお伝えします。

【目次】

  1. 暴行罪ってどんな罪?
  2. 傷害罪との違いは?

  3. 「暴行罪」と「傷害罪」両方が問われることはある?

  4. 初犯なら軽く済む?

  5. 未成年者の暴行はどう扱われる?

  6. 暴行罪は親告罪ですか?

  7. 被害届を出しても警察は動かないことがある?

  8. 防犯カメラや録音がないと立証されない?

  9. 警察から呼び出されたときの対応は?黙秘してもいい?

  10. 暴行罪の時効はいつまで?

  11. 暴行事件では、刑事と民事、両方の責任を問われるの?

  12. まとめ:早期相談の重要性

Q1. 暴行罪ってどんな罪?

暴行罪(刑法208条)は、次の3つの要件がそろったときに成立します。

  • 暴行と認められる行為があること

  • 相手にケガ(傷害)を負わせていないこと

  • 故意に行われたこと

この場合、「二年以下の拘禁刑、三十万円以下の罰金、または拘留・科料」が科される可能性があります。

「暴行」とは何か――

一般的には、殴る・蹴るといった身体への攻撃を思い浮かべがちですが、暴行罪に該当する行為はそれだけではありません。

たとえば以下のような行為も、暴行と判断されることがあります。

  • 胸ぐらをつかむ

  • 軽く頭を叩く

  • 水や飲み物をかける

  • 石やペットボトルを投げる(当たらなくても)

  • 肩を押す、腕を強くつかむ

重要なのは、「実際に接触したかどうか」ではなく、相手の身体に何らかの影響を与えようとする行為かどうかです。

判例でも、「物が当たっていなくても、威圧感や恐怖を与える行為」であれば暴行と認められることがあります。
つまり、暴行罪は“ケガをさせていなくても成立する”犯罪であり、身近な言動が思わぬトラブルにつながることもあるのです。

Q2. 傷害罪との違いは?

暴行罪と傷害罪の最大の違いは、「相手に実際の被害(身体の変調)が生じたかどうか」です。

傷害罪(刑法204条)は、暴行の結果として 身体や精神に変化が生じたとき に成立します。ここでいう「変化」とは、必ずしも目に見える外傷に限りません。

たとえば、以下のような症状も傷害に該当する可能性があります。

  • 頭痛・吐き気・めまい

  • 精神的な不安・不眠などのストレス症状

  • 打撲による内出血や、数日以上続く痛み

つまり、「血が出ていないから傷害ではない」「病院に行っていないから大丈夫」という思い込みは危険です。体や心に影響が残った時点で、傷害罪が成立する可能性があると考えてください。

また、警察や検察、裁判所が傷害罪と判断する際には、診断書の有無や、症状の継続性が重視されます。そのため、被害を受けたとされる側が医療機関を受診し、記録として診断書を取得しているかどうかが、最終的な判断を左右する大きな要素になります。

関連コラム:「心の傷」でも傷害罪?精神的苦痛で傷害罪が成立するケースとその判断基準を解説します

Q3. 「暴行罪」と「傷害罪」両方が問われることはある?

暴行罪と傷害罪が“同時に”成立することは、原則としてありません。

ただし、捜査の初期段階では暴行罪として扱われ、その後、診断書の内容や症状の経過によって傷害罪に切り替わるというケースは少なくありません。

たとえば:

転倒させたが、当初はケガが確認されず → 暴行罪で捜査開始

数日後、骨折や内出血が判明 → 傷害罪に切り替え

このように、罪名は状況に応じて変わる可能性があります。軽いと思っていた行為でも、診断の結果次第でより重い処罰対象となることがあるため、「初動の対応」や「医療記録」は非常に重要です。

Q4. 初犯なら軽く済む?

初犯かどうかは、処分の重さを左右する重要な要素のひとつです。

暴行罪では、行為の悪質性に加えて「前科の有無」「被害者との示談状況」「反省の態度」などが、処分の判断材料になります。

とくに初犯の場合、以下のような事情がそろっていれば、罰金処分(略式命令)や不起訴で済む可能性があります。

  • 示談が成立している

  • 被害届が取り下げられている

  • 本人が深く反省し、謝罪や再発防止策を示している

  • 社会的制裁(会社処分、転職など)をすでに受けている

一方で、再犯や前科がある場合には、同じような行為でも処分が重くなりやすく、起訴→正式裁判→前科がつく可能性も高まります。

また、本人の反省態度が不十分と判断された場合や、示談交渉が難航した場合も、処分が厳しくなる傾向があります。

💡 「不起訴」や「罰金」で済ませるには、早期の対応と誠実な姿勢がカギになります。弁護士を通じて、示談や謝罪文の作成、再発防止策の提示などを適切に進めることで、処分が大きく変わるケースは少なくありません。

Q5. 未成年者の暴行はどう扱われる?

未成年者が暴行を行った場合でも、法的責任は免れません。ただし、成人とは異なる手続きと処分が用意されています。

暴行罪に問われる可能性は、14歳以上であれば発生します。日本の法律では、14歳未満は刑事責任を問えませんが、14歳以上は「少年」として刑事処分の対象になります(少年法に基づく)。

以下のような流れで処理されることが一般的です。

✅ 少年による暴行事件の基本的な流れ

  • 警察が事件を「補導・捜査」し、家庭裁判所に送致

  • 家庭裁判所が調査を行い、保護処分にするかどうかを判断

  • 必要に応じて、保護観察や少年院送致などの措置が取られる

✅ 少年事件で重視されるポイント

  • 家庭環境反省の有無

  • 学校や保護者の指導状況

  • 再犯の可能性

  • 被害者との示談状況

処罰よりも「更生」が重視されるのが少年事件の特徴ですが、反省が見られない場合や、重大な傷害が生じた場合は厳しい措置が取られることもあります。

Q6. 暴行罪は親告罪ですか?

暴行罪・傷害罪はいずれも「非親告罪」です。
つまり、被害者が「許す」と言っても、それだけで事件が終わるわけではありません。警察や検察は、被害者の意思にかかわらず捜査・起訴を進めることができます。

ただし、実際の処分においては「示談が成立しているかどうか」が非常に重要な判断材料となります。

  • 示談が成立し、被害届も取り下げられている場合
     → 不起訴処分となる可能性が高くなります。

  • 示談が成立していない場合
     → 略式命令による罰金、あるいは正式起訴に進むことがあります。

特に暴行罪では、示談が整っていれば略式手続き(罰金)で終結することも多いですが、傷害罪の場合は被害の程度が重視され、正式裁判に発展する可能性が高まります。その場合、前科がつくリスクも無視できません。

Q7. 被害届を出しても、警察は動いてくれないことがある?

はい、あります。実は被害届を提出したからといって、警察に捜査の義務が生じるわけではありません。被害届はあくまで「被害者の申告」であり、それだけで事件化(正式な捜査対象となること)されるとは限らないのです。

一方で警察官が現場で通報を受けて状況を確認し、“事件性あり”と判断した場合は、警察が事件を「認知」したことになり、捜査に入る義務が生じます。

ただし、通報を受けて警察が捜査を開始しても、最終的に事件として立件されるかどうかは内容次第です。

たとえば、

  • 客観的証拠(防犯カメラ、録音など)がない

  • 暴行の程度が軽微であり常習性が認められない

  • 被害者と加害者の主張が食い違っている

こうした場合、警察が「民事での対応が適当」と判断し、積極的な捜査を見送ることもあります。

警察に動いてもらうには、「被害の程度や経緯」を丁寧に説明し、可能な限り証拠(録音・記録・LINEのやりとりなど)をそろえて提出することが大切です。

Q8. 防犯カメラや録音がないと、立証されない?

直接的な証拠がなくても、暴行の立証は可能です。証言や状況証拠などを総合的に評価して判断されます。

暴行事件では、防犯カメラや録音などの「客観的証拠」がないケースも少なくありません。しかし、そうした場合でも捜査や裁判は進みます。

以下のような「状況証拠」や「供述」が重要になります。

✅ 暴行の立証に使われる主な証拠

被害者の供述

  • …暴行の日時、場所、加害者の行動、当時の状況などを詳しく説明

  • 目撃者の証言
     …第三者がいた場合、その証言が大きな意味を持つ

  • 現場の状況
     …倒れていた椅子、こぼれた飲み物、破れた衣服などの物的状況

  • 加害者の供述
     …認めた内容や矛盾した発言が、信用性を左右する

✅ 証拠が乏しい場合のポイント

  • 被害者と加害者の供述が一致しない場合は、どちらの言い分に「具体性・一貫性・客観性」があるかが判断基準になります。

  • たとえ録音がなくても、「LINEで暴行をにおわせる発言があった」「事件直後に誰かに相談していた」など、間接的な証拠が信頼性を高めることもあります。

💡 「証拠がないから無罪」とは限りません。
裁判所は「合理的な疑いを超える」証明があれば有罪と判断します。
一方で、証言の信用性に疑問があれば不起訴や無罪になることもあるため、被疑者側としても冷静な対応が求められます。

Q9. 警察から呼び出されたときの対応は?黙秘してもいいの?

 呼び出しに応じる義務はありますが、黙秘権も含め、自分の権利はしっかり守ることが重要です。

警察から「事情を聞きたい」と連絡があった場合、任意の呼び出しであれば、出頭を強制されるものではありません。ただし、拒否を続けると逮捕のリスクが高まることもあるため、原則として応じたほうが望ましいです。

✅ 出頭時のポイント

  • 警察は「任意捜査」として呼び出しても、実際には強い圧力を感じる場面もあります。

  • 不安がある場合は、出頭前に弁護士に相談し、同行を依頼することも可能です。

  • 取り調べでは「黙秘権」が認められており、自分に不利なことを話す義務はありません。

✅ 黙秘するべきか、話すべきか?

状況によります。たとえば:

  • 自分に不利な内容を言わされそうな雰囲気なら「弁護士と相談してから話します」と伝え取り調べの途中でも席を立ち弁護士に相談することは可能です。(*事前に弁護士に依頼している場合)

  • 一部に誤解があり、冷静に説明できる状況であれば、最低限の事実を伝えましょう。

💡 曖昧なまま話すと、不利な供述調書が残るリスクも。
少しでも不安があるなら、黙秘権の行使や、弁護士の立ち会いを検討すべきです。

関連コラム:取り調べで不利にならないために!弁護士が教える供述のコツとNG行動 

Q10. 暴行罪の時効はいつまで? 

暴行罪の時効は「3年」です。ただし、すべてのケースで一律に適用されるわけではありません。

暴行罪(刑法208条)の公訴時効は、暴行行為が行われた日から3年です。つまり、警察や検察が3年以内に起訴しなければ、それ以降は刑事処罰の対象にはなりません

ですが、「3年経ったからもう関係ない」とは言い切れないのが実務の現場です。

そもそも「時効が進行する」のは、加害者の所在がわかっており、起訴可能な状況であることが前提です。
たとえば以下のような場合、時効のカウントが止まる(時効の停止)こともあります。

  • 加害者が海外に逃亡していた

  • 実名や住所が不明で身柄を特定できない状態だった

  • 起訴準備が整わないほど証拠収集に時間がかかっていた

また、暴行の結果、後から「けが」が判明した場合は傷害罪に切り替わり、時効は10年に延長されることがあります。
(傷害罪の公訴時効は刑法204条に基づき10年)

関連コラム:【時効の停止ってどういうこと?】刑事と民事の時効制度の違いをわかりやすく解説します!

Q11. 暴行事件では、刑事と民事、両方の責任を問われるの?

暴行行為は「刑事責任」と「民事責任」の両方を負う可能性があります。

暴行罪は「刑事事件」として処理される犯罪です。加害者には、以下のような刑事上の処分が下される可能性があります:

  • 拘禁刑

  • 罰金刑

  • 略式命令(軽微なケースでは罰金で終了することも)

一方で、被害者は加害者に対して「民事上の損害賠償」を求めることも可能です。たとえ刑事手続きが終結しても、慰謝料や治療費などの請求権は別に残るため、以下のような請求が考えられます:

  • 精神的苦痛に対する慰謝料

  • 治療費や通院交通費などの実費

  • 仕事を休んだことによる休業損害

つまり、暴行をすれば「国家への責任(刑事)」と「被害者への責任(民事)」の両方を問われる可能性があるのです。

💡たとえば、刑事事件では不起訴処分となった場合でも、民事では損害賠償が認められるケースもあります。
それぞれの手続きは独立しており、結果が連動するとは限りません。

まとめ:暴行罪をめぐるトラブルは、早めの対応がカギ

暴行罪は、想像以上に広い範囲の行為が対象となり、軽い接触や威圧的な態度だけでも「暴行」と認定される可能性があります。さらに、傷害が後から判明すれば「傷害罪」に切り替わることもあり、処分の重さは大きく変わります。

また、暴行罪・傷害罪はどちらも「非親告罪」です。被害者が許しても、警察や検察が捜査・起訴を進める可能性があります。逆に、軽微なトラブルであっても、相手から被害を主張されれば、事情聴取や書類送検などが現実のものになります。

そのうえで重要なのが、「一人で判断しないこと」です。
警察の呼び出し、示談交渉、起訴の可能性……どれも人生に大きく関わる問題であり、弁護士の助言があるかないかで結果が大きく変わる場面も多くあります。

「これは暴行罪になるの?」「黙秘していいの?」「示談したいけどどうすれば?」
こうした不安や疑問を感じたときは、すぐに弁護士に相談してください。早期の対応が、前科や処罰のリスクを軽減し、将来の選択肢を守ることにつながります。

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