2025/05/21 コラム
「逮捕後でも『告訴』は可能!冤罪や共犯者の責任追及に向けた法的アプローチ
【はじめに:逮捕された人でも「告訴」はできる?】
「逮捕されたのに告訴?」と驚く方もいるかもしれません。
一般に「告訴」とは、被害を受けた人が加害者を処罰してほしいと警察や検察に意思表示することを指します。
加害者として逮捕された人が、同じ事件や関係者に対して告訴を行うのは、一見すると矛盾しているように思えるかもしれません。
しかし実際には、冤罪を訴えたい場合や、共犯者の一方的な責任を追及したいとき、あるいは逮捕時に不当な暴力や違法な捜査を受けたと感じたときなど、「逮捕された人が告訴する」ケースは存在します。
このコラムでは、逮捕された立場でも告訴が可能であること、そしてその手続きや注意点について、弁護士の視点からわかりやすく解説していきます。
【逮捕された人が告訴する3つのパターン】
逮捕された人が「告訴する」と聞くと意外かもしれませんが、実際には以下のような3つのケースが現実的に存在します。それぞれのケースで、告訴が認められるか、受理されるかには一定の条件があります。
🔹 1. 冤罪を主張して、被害届・告訴するパターン
「自分はやっていないのに、なぜ逮捕されたのか?」
そんな疑問を抱えたまま逮捕された場合、あなた自身が“被害者”となっている可能性もあります。冤罪を主張する場合、「逆に告訴する」という法的アプローチが有効になることがあります。
告訴できる主な罪名は?
冤罪の背景には、他人の虚偽の証言や悪意ある通報が関わっていることがあります。そのような場合、次のような罪で相手を告訴することが可能です:
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虚偽告訴罪(刑法172条)
警察や検察に対して、事実ではないことを「犯罪である」として訴えた場合に成立。
→ 嘘の通報で逮捕された場合に該当する可能性あり。 -
名誉毀損罪(刑法230条)
公然と事実を摘示して、社会的評価を下げた場合に成立。
→ SNSや知人への噂によって被害を受けたときなど。 -
偽計業務妨害罪
あなたの職業・信用に打撃を与える目的で虚偽申告された場合。
あなたが「逆に被害を受けた」と訴えることで、
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相手の信用性を崩す
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自分の主張の信頼性を高める
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真犯人の存在を示唆する
といった効果が期待できます。
ただし、逆告訴は慎重に行うべき手段でもあるため、弁護士の判断と戦略に基づいて進めることが不可欠です。
🔹 2. 共犯者への責任追及を目的とする告訴
「自分は共犯者に命令された」「脅されて断れなかった」──そんな状況で事件に巻き込まれた場合、あなたにも刑事責任が問われる可能性はありますが、主犯が誰なのかを明らかにすることも重要です。
そうしたとき、逮捕された側から“共犯者を告訴する”という対応が選択肢になります。
共犯者を告訴する場面とは?
たとえば、以下のようなケースでは「共犯者の方に主な責任がある」と主張できます:
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共犯者が計画・実行を主導した
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あなたは脅されたり、強制された立場だった
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共犯者があなたに嘘の説明をして関与させた
こうした場合、自分が「主犯ではない」ことを示し、真の責任の所在を明確にするための告訴が戦略として有効です。
共犯者との関係性を証明するには?
告訴するには、以下のような具体的な証拠が非常に重要になります:
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LINEやメールなどのメッセージ履歴(指示内容が書かれている)
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録音データ(脅迫・命令・会話内容)
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第三者の証言(共通の知人・目撃者)
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お金のやり取りや役割分担を示す資料
これらの資料を元に、あなたが「主導していない」ことを主張します。
🔹 3. 捜査機関の違法行為を告訴するケース
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逮捕の際に不当な暴力を受けた(警察官による暴行)
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違法な取り調べが行われた(長時間拘束、脅迫的な尋問)
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弁護士を呼ぶ権利が妨げられた
これらは、国家賠償請求や特別公務員暴行陵虐罪などの告訴対象になり得ます。
ただし、警察や検察相手の告訴は証拠が特に重要とされるため、録音や診断書、目撃者証言などの収集がカギになります。
どう証拠を残す?
逮捕や取り調べの場面で、「暴力を受けた」「弁護士を呼ばせてもらえなかった」「脅迫のような尋問をされた」と感じたら――
その体験は「主観」ではなく、証拠として残すことが重要です。
ここでは、警察官の違法行為を告訴・証明するための証拠の残し方を紹介します。
取り調べ内容をメモする
長時間の尋問や脅迫的な言動があった場合は、できるだけ詳しくメモを残すことが有効です。弁護士が渡す「被疑者ノート」を通じて弁護士と共有しましょう。
メモに書くべきポイント:
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取り調べの日時・場所・時間
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誰に何を言われたか(言葉をなるべく正確に)
- 暴行を受けた日・その時の様子・ケガの具合
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弁護士を呼びたいと言ったかどうか
→ 後に弁護士と一緒に「供述調書の任意性」を争う際に役立ちます。
弁護士にできるだけ早く相談
自分では証拠が集められない場合でも、弁護士に相談すれば対応が可能です。
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拘束記録や接見の記録を取り寄せる
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警察の対応について意見書や抗議書を出す
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必要に応じて「国家賠償請求」や「刑事告訴」の手続きを検討
弁護士に相談することで、「違法な取調べがあった」という主張に客観性と正当性を持たせることができます。
証拠がなくても諦めないで
「録音もしてないし、病院にも行けなかったからもう無理…」
そんなふうに諦める必要はありません。
たとえ証拠が少なくても、弁護士が法的に正しい手順で追及していけば、警察内部の調査が動き出すこともあります。
「被害者なのに誰も信じてくれない」――そう感じたときこそ、弁護士の力を借りるべきです。
このように、逮捕された後でも「告訴」という選択肢は決して珍しいものではありません。状況に応じて適切な形で進めるためにも、弁護士のサポートが重要です。
自分の裁判に有利な証拠になることも
自分に対する刑事裁判が進行中であれば、告訴の結果が次のような形でプラスに働くことがあります。
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「冤罪の可能性あり」として不起訴または無罪の判断につながる
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告訴された相手の信用性が低下し、自分の主張の信用が高まる
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第三者の責任が明らかになり、自分の量刑が軽くなる可能性が出てくる
裁判所にとっては、「全体の事実関係」が重要視されるため、新たな事実が見えることで判断が変わることもあるのです。
告訴が却下されることもある
ただし、次のようなケースでは告訴が受理されず、捜査に至らないこともあります。
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十分な証拠がなく、主張が推測や憶測にとどまっている
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相手の行為が明確な犯罪に当たらない
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告訴が「報復目的」と受け取られるような場合
そのため、告訴する場合には感情的にならず、証拠を整えたうえで、冷静かつ戦略的に動くことが大切です。