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2026/07/15 コラム

交通事故で人を轢いてしまった|過失運転致傷の刑事手続きと弁護士の役割

交通事故で人を轢いてしまった|過失運転致傷の刑事手続きと弁護士の役割

「一瞬、よそ見をしてしまった」「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」「歩行者が急に飛び出してきた」——。車を運転する人であれば、誰しも交通事故の加害者になるリスクを抱えています。どんなに気をつけていても、ほんの一瞬の不注意が、他人の命や健康を奪う取り返しのつかない事態を招くことがあります。

交通事故で人にケガをさせてしまった場合、加害者は「民事上の責任(損害賠償)」「行政上の責任(免許停止・取り消し)」だけでなく、「刑事上の責任(刑罰)」という3つの重い責任を負うことになります。この記事では、人身事故を起こしてしまった加害者が直面する「刑事手続き」の流れと、刑罰を少しでも軽くするためにすべきことについて、専門弁護士が詳しく解説します。

人身事故で成立する犯罪「過失運転致死傷罪」

自動車の運転中に過失(不注意)によって人にケガをさせた場合、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷処罰法)」第5条に定められた「過失運転致死傷罪」が成立します。

この罪の法定刑は、「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」です。相手が死亡してしまった場合だけでなく、骨折やむち打ちなどのケガを負わせた場合でも、この犯罪に問われることになります。

なお、飲酒運転や無免許運転、著しいスピード違反など、極めて悪質な運転によって事故を起こした場合は、より刑罰の重い「危険運転致死傷罪」が適用される可能性があります。

事故発生から処分決定までの流れ

人身事故を起こしてしまった場合、刑事手続きは以下のような流れで進みます。

1. 警察の捜査(実況見分と事情聴取)

事故直後、警察官による現場検証(実況見分)が行われます。加害者もこれに立ち会い、当時の状況(スピード、ブレーキのタイミング、視界など)を説明します。後日、警察署に呼び出され、詳しい事情聴取が行われ、供述調書が作成されます。

逃亡の恐れがない一般的な事故であれば、逮捕されずに「在宅事件」として捜査が進むことが多いですが、被害者が死亡したり重傷を負ったりした場合、あるいは加害者が事故の事実を否認している場合は、逮捕・勾留されるリスクが高まります。

2. 検察庁への送致(書類送検)

警察の捜査が完了すると、事件の記録が検察官に送られます。検察官は、警察の記録を読み、必要に応じて加害者や被害者を呼び出して再度事情を聴きます。

3. 起訴・不起訴の決定

検察官は、事故の状況、過失の程度、被害者のケガの重さ、示談の有無などを総合的に判断し、加害者を裁判にかける(起訴)か、処罰を見送る(不起訴)かを決定します。

被害者のケガが比較的軽く、任意保険による賠償が確実に見込まれる場合は、「不起訴処分(起訴猶予)」となるケースも少なくありません。不起訴となれば、刑事罰を受けることはなく、前科もつきません。

4. 刑事裁判(略式命令または公判)

起訴される場合、大きく分けて2つのルートがあります。
一つは「略式命令」です。加害者が事実を認めており、罰金刑が相当と判断された場合、書面上の手続きだけで罰金の支払いが命じられます。裁判所に出廷する必要はありませんが、前科はつきます。

もう一つは「正式裁判(公判)」です。被害者が死亡した重大事故や、加害者の過失が極めて大きい場合、あるいは加害者が無罪を主張している場合は、公開の法廷で裁判が行われます。実刑判決(刑務所に入ること)が下される可能性もあります。

刑罰を軽くするために重要な「3つの要素」

過失運転致傷罪において、検察官の処分(不起訴か起訴か)や、裁判官の量刑(刑の重さ)を決定する上で、特に重視される要素が3つあります。

1. 過失の程度: 前方不注意、信号無視、スピード違反など、加害者の落ち度がどれくらい大きかったか。
2. 結果の重大性: 被害者のケガの程度、後遺障害の有無、治療期間の長さ。
3. 処罰感情と被害弁償: 被害者が加害者をどれくらい強く罰してほしいと望んでいるか。そして、損害賠償(示談)が済んでいるか。

加害者側でコントロールできるのは、主に「3. 処罰感情と被害弁償」の部分です。適切な被害弁償を行い、被害者の処罰感情を和らげることが、不起訴処分や刑の軽減(執行猶予など)を獲得するための最大の鍵となります。

なぜ任意保険会社任せではダメなのか?弁護士の役割

「自動車保険(任意保険)に入っているから、示談交渉は保険会社がやってくれるだろう」と考える方は多いかもしれません。確かに、治療費や慰謝料などの「民事上の損害賠償」については、保険会社の担当者が交渉を代行してくれます。

しかし、保険会社の目的はあくまで「適正な賠償金を支払うこと」であり、「あなたの刑事罰を軽くすること」ではありません。保険会社の交渉は時間がかかることが多く、検察官が起訴・不起訴を決定するタイムリミット(数ヶ月程度)に間に合わないケースが多々あります。

ここで、刑事事件に精通した弁護士が介入する意味があります。弁護士は以下の活動を通じて、加害者の刑事責任を軽減するよう働きかけます。

  • 早期の謝罪と示談交渉: 保険会社の賠償交渉とは別に、加害者の代理人として被害者に真摯な謝罪を伝え、刑事手続き上の「示談(宥恕文言の獲得)」を早期に成立させるよう努めます。
  • 検察官への働きかけ: 示談が成立したこと、加害者が深く反省していること、再犯防止策(車の売却など)を講じていることを検察官に示し、不起訴処分や略式罰金にするよう交渉します。
  • 実況見分調書の精査: 警察の作成した実況見分調書に誤りがないかを確認し、被害者側にも過失(飛び出しなど)があった場合は、それを客観的な証拠に基づいて主張します。

人身事故で絶対にやってはいけないこと

交通事故を起こしてしまった直後、パニックになって誤った行動をとることが、状況を取り返しのつかないほど悪化させます。以下の行動は絶対に避けてください。

その場から立ち去る(ひき逃げ):
事故を起こしてそのまま現場から立ち去る行為は、「救護義務違反・報告義務違反(ひき逃げ)」として、過失運転致傷罪とは別の犯罪が成立します。ひき逃げの法定刑は「10年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と非常に重く、免許取消しも確実です。たとえ怖くても、絶対にその場に留まってください。

被害者に「警察には言わないでほしい」と頼む:
その場で被害者と示談を試みたり、「お金を払うから警察には通報しないでほしい」と頼む行為は、後に「口止めを図った」とみなされ、情状面で極めて不利に働きます。また、被害者の怪我の程度が後から判明した場合、「適切な救護を怎った」として罪が重くなる可能性があります。

SNSで事故のことを書き込む:
「人を轢いてしまった」などとSNSに書き込む行為は、後の裁判で不利な証拠として使われる可能性があります。事故に関することは、弁護士以外の誰にも話さないのが鉄則です。

免許停止・取消しと刑事罰の関係

人身事故を起こした場合、刑事罰とは別に、公安委員会による行政処分(免許停止・取消し)も下されます。これは刑事裁判の結果とは無関係に、事故の状況に応じて自動的に加算される違反点数によって決まります。

例えば、「専ら過失による人身事故(治療期間15日以上30日未満)」であれば違反点数6点が加算され、過去の違反点数と合算して免許停止の対象となる可能性があります。死亡事故や重傷事故の場合は、それだけで免許取消しになることもあります。

刑事弁護においては、「不起訴処分の獲得」が免許への影響を最小限に抑えるためにも重要です。不起訴処分となれば前科がつかず、将来的な免許再取得の際にも不利になりません。車を仕事で使う方にとっては、免許の問題も含めた総合的な弁護戦略が不可欠です。

事故の責任から逃げず、適切な対応を

交通事故を起こしてしまった直後は、気が動転し、どうしていいか分からなくなるものです。しかし、現実から目を背けたり、保険会社任せにしたりしていては、重い刑事罰という最悪の結果を招きかねません。

被害者への誠実な対応と、あなた自身の人生を守るための法的な防御は、両立させることができます。人身事故を起こしてしまったら、警察の捜査が進む前に、一刻も早く刑事事件の実務に強い弁護士にご相談ください。

監修:弁護士 須賀翔紀

須賀法律事務所 代表弁護士。交通死亡事故や重傷事故における加害者側の刑事弁護に多数の実績を持つ。保険会社とは異なる視点から、被害者への真摯な謝罪と早期の示談交渉を行い、不起訴処分や執行猶予の獲得に尽力している。

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