2025/10/08 コラム
②児童ポルノ示談後に再請求?二重請求の見抜き方と止め方【追加請求を止めるテンプレ付】
当事務所には、児童ポルノ事件での示談をすでに済ませたにもかかわらず、被害者の親・親族から再び金銭を請求されたというご相談が多数寄せられています。
たとえばこんなケースです:
- 「最初に支払ったのは被害者本人への分。今度は親が“精神的苦痛”で慰謝料を請求してきた」
- 「送信と所持で罪が違うから、別に示談が必要だと言われた」
- 「最初の示談後、親族が“納得していない”と言ってさらに請求してきた」
こうした請求は一見すると“もっともらしく”感じてしまいますが、法律上は「二重請求(過剰請求)」にあたる可能性が高いのです。
本記事では、児童ポルノ事件に関する代表的な罪、示談の考え方、そして再請求を防ぐための方法まで、わかりやすく解説します。
児童ポルノで何の罪に問われる?—所持・製造・提供の違いと上限刑
要点: 保存・要求・配布など行為態様で罪名と上限刑が変わる。不特定多数への提供や教唆が加わると責任が重くなりやすい。
行為(典型事例) | 適用法/罪名 | 上限刑 | 実務メモ |
---|---|---|---|
画像を保存・DL | 児童ポルノ所持等 | 懲役1年以下/罰金100万円以下 | 一時的保有か否か等の事情が考慮 |
児童に撮影させる | 児童ポルノ製造 | 懲役3年以下/罰金300万円以下 | 求め方が強いと教唆・強要の評価も |
販売・譲渡・配布 | 児童ポルノ提供 | 原則:懲役3年以下/罰金300万円以下 不特定多数:懲役5年以下/罰金500万円以下 |
グループ配布や公開範囲がポイント |
誰でも見られる状態に | 公然陳列 | 懲役5年以下/罰金500万円以下 | SNS・共有アルバム等も対象 |
16歳未満に送信要求 | 面会要求等 | 拘禁刑1年以下/罰金50万円以下 | 要求だけで成立し得る点に注意 |
- 16歳未満の者に性的画像や動画を要求した場合:面会要求等罪(刑法182条3項)
*13歳以上16歳未満の場合は、行為者が被害者より5歳以上年長である必要があります。
- 18歳以上に性的画像や動画を要求した場合:児童ポルノ法違反は成立しません。脅したり暴行をして送らせた場合には強要罪(刑法223条)などが成立する可能性があります。
再請求は違法?—二重請求の判断基準と証拠のそろえ方
要点: 画像の同一性・精神的損害の一体性・拡散の時期と範囲で「同一被害」かを判断。清算条項があれば再請求は原則排斥。
「同一被害」かどうかをどう見分ける?
- 画像の同一性(同じファイル/同じ内容)
- 精神的損害の一体性(期間・被害感情の連続性)
- 拡散範囲と時間的近接
既示談に清算条項(=これ以上請求しない合意)があれば、原則として新たな請求はできません。 |
示談金に通常含まれるものは?
- 慰謝料(精神的損害)
- 損害賠償全般(本件に起因するもの)
- 今後一切の請求放棄(=清算)
大人が送って児童にも要求したら?—条例違反・教唆・強要の整理
要点: 送信自体は迷惑防止条例、要求は児童ポルノ製造・取得の教唆に評価され得る。威迫があれば強要・脅迫の可能性。
大人が児童(18歳未満)に自身のわいせつ画像を送り、さらに児童にも画像を要求した場合の評価を、行為ごとに整理します(※実際の当否は個別事情によります)。
① 提供・閲覧可能化行為
迷惑防止条例違反(都道府県ごとに規定あり)。児童にわいせつ画像を送信したり、閲覧できる状態にした場合に成立し得ます。
各都道府県の条例はe-Gov法令検索で確認できます。
② 送信要求行為
児童ポルノ製造・取得教唆罪(児童ポルノ禁止法 第5条、刑法 第62条)。
児童に自身の性的画像を撮影・送信するよう求めることで、その製造を「教唆」したと評価される可能性があります。
初犯でも条例違反で検挙される例があります。
③ 威迫・強制行為
「送らなければばらまく」「怒る」などの圧力をかけた場合、
強要罪(刑法223条)や 脅迫罪(刑法222条) が成立し得ます。児童が精神的に追い詰められたと判断されると、責任が重く評価されます。
④ 多数提供行為
グループチャット等で多数へ送信・配布した場合は、児童ポルノ提供罪(児童ポルノ禁止法)の対象となり、処罰が重くなります。
児童の同意は無効 児童が「自分から送った」「同意した」場合でも、法的には同意に意味はなく、大人側に刑事責任が問われます。 |
再請求を防ぐ“これ以上請求しない”条項(清算条項)の書き方
清算条項=「この件はこれで完全に終わり。あとから一切請求しません」と合意する一文。
追加請求をブロックします。
そのまま使える文例(短文)
本件に関し、当事者間に他の債権債務が存在しないことを確認し、
甲乙は本件について将来にわたり一切の請求をしない。
より親切な文例(範囲を明示)
本示談金には本件に関する損害賠償・慰謝料のすべてを含む。
甲乙は本件について、裁判上・裁判外を問わずこれ以上請求しない。
▶ 示談書テンプレ
示談書 被害者○○を甲、被告人△△を乙として、甲と乙は、令和 年 月 日に東京都A区B町において発生した乙の甲に対する刑事事件(以下「本件事件」という。)について、以下のとおり示談をした。 記 第1条(謝罪) 第2条(示談金) 第3条(清算条項) 第4条(接触禁止条項) 第5条(宥恕条項) 第6条(守秘義務条項) 本示談契約を証するため、本書を2通作成し、各自1通を所持する。 令和 年 月 日 (甲署名)住所/氏名/印 (乙署名)住所/氏名/印 甲乙ともに、本件に関して口外しない。 ※弁護士を通じ、事件内容に即した文言調整が必要です。 |
NG例(よくある落とし穴)
- 金額だけ書いて清算条項が無い
- 「当面請求しない」など曖昧
- 未成年で親権者の署名押印が無い
事件化したら何をすべき?不起訴・軽減のポイント
たとえ一度の軽率なやりとりでも、児童ポルノ関連の事件はすぐに刑事事件化するおそれがあるため、対応を誤ると重大な結果につながりかねません。もし事件化してしまった場合、弁護士としては状況に応じて最適な戦略を立てていきます。
① 犯罪の成立を争う (無罪主張)
1. 年齢誤認(故意否定)
被害者が18歳以上と偽っていた、または成人と誤認する状況だった/SNSやマッチングアプリで年齢が「18歳以上」と表示されていた/成人の身分証の提示を受けていた
▶ 故意がないため、児童ポルノ関連罪は成立しないと主張します。これは最も強力な争点になり得ます。
2.教唆の否定(児童ポルノ製造教唆罪)
一度だけ軽く「見せて」と言っただけで強要性はなかった、被害者が自発的に送ろうとしたか送っていない、やり取りに命令性や支配性がない
▶ 「そそのかした」とは言えない=教唆に当たらないという主張が可能です。
② 処分の軽減を目指す
1. 示談成立
被害者本人および親権者と示談することで、処分の軽減・不起訴の可能性を高める(謝罪文・金銭的解決・今後の接触禁止など)
2. 再発防止の取り組み
SNSやスマホの利用制限、誓約書の提出、家族の監督や生活環境の改善をアピール
▶ これらは、検察や裁判所に「再犯リスクが低い」と評価させる材料になります。
実務的なポイント
児童が画像を実際に送ったかどうかは大きな分かれ目/SNSの文脈・頻度・誘導の強さが重視される/示談があるかどうかで処分は大きく変わる/初犯でも不起訴になるとは限らないので注意が必要
年齢を偽られた場合は?「故意」の有無がカギ
児童ポルノ関連の罪が成立するには、「この相手が18歳未満である」と知っていた、またはそう思っていたという故意(わざとやったという認識)が必要です。実際、身分証を提示された、SNSプロフィールで成人と記載されていた、といった事情は有力な弁護材料となります。ただし、明らかに未成年に見える外見だったにもかかわらず年齢確認を怠った場合には、合理的な確認義務を果たしていないとして故意ありと判断されやすいため、注意が必要です。
よくある質問(FAQ)
示談後に親や親族から追加で請求されたら払うべきですか?
原則不要です。示談書に清算条項(これ以上請求しない)があれば、同一被害の再請求は無効となる可能性が高いです。支払いを止め、まず弁護士にご相談ください。
「送信」と「所持」は別罪でも示談は分けるべきですか?
同じ画像や一体の精神的損害であれば、通常は1回の示談で包括解決します。複数示談は不要です。
「親族が納得していない」と言われた場合、追加請求は有効ですか?
原則無効です。適法な示談と清算条項があれば、親族の請求は法的根拠を欠く場合がほとんどです。
清算条項(「これ以上請求しない」)はどう書けば有効ですか?
「本件に関し、裁判上・裁判外を問わず、慰謝料その他一切の請求を将来にわたり行わない」と明記すると、再請求を防ぐ効果が高まります。
年齢を偽られた場合でも罪に問われますか?
被害者が年齢を偽っていた、または成人と誤信する合理的理由がある場合は故意が否定される余地があります。ただし、明らかに未成年と分かる状況で確認を怠ると難しくなります。
当事務所では、児童ポルノに関する法律相談を受け付けております。初回相談無料です。お気軽にお電話またはLINEにてお問い合わせください。
※本記事は一般的な解説です。実際の案件は事実関係により結論が異なります。