コラム

2025/07/26 コラム

【万引き】強盗致死傷罪で懲役10年?窃盗罪で終わらない“接触”の法的リスク

「万引きなのに“強盗”扱い?」

「ほんの軽い気持ちでやっただけ」
「逃げようとしただけで、手を振り払っただけ」
それが、懲役10年にもなり得る“強盗致死傷罪”に問われる可能性があるとしたら、信じられますか?

本来、万引きは“窃盗罪”として処罰されるのが一般的です。
刑法では、他人の物をこっそり持ち去る行為は「窃盗」とされ、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

とはいえ、窃盗の中でも「万引き」は軽い犯罪だと思われがちです。
ところが実際には、万引きの現場から逃げる際に店員に“ちょっと接触”しただけで、重罪である“強盗致死傷罪”に発展するケースも少なくありません。

「そんな大げさな」と思うかもしれませんが、法的には万引き後の行動次第で“窃盗”から“強盗”に格上げされることがあるのです。

この記事では、

  • 強盗致死傷罪の基本的な仕組み

  • 万引きから罪が重くなる具体的なパターン

  • 実際に有罪判決が出た事例

  • 処罰の重さや人生への影響
    について、弁護士の視点からわかりやすく解説します。

 

強盗致死傷罪とは?基本をわかりやすく解説

万引き=窃盗罪、でも行動次第で“強盗”に

まずは「強盗罪」の定義を確認しておきましょう。

刑法236条では、強盗罪について次のように定められています。

暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期拘禁刑に処する。

つまり、ただ盗むだけではなく、人に暴力をふるったり脅したうえで財物を奪えば「強盗罪」になるということです。

ここで重要なのが、「事後強盗罪(刑法238条)」の存在です。

窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

たとえば、

  • 店員に呼び止められて咄嗟に腕を振り払った
  • 商品を返せと言われて押しのけたら転倒・打撲させてしまった
  • 逃走を止めようとした相手の腕を振り払ったらケガをさせた

    このような一瞬の行動であっても、“暴行”または“傷害”と判断され、もともと窃盗だった行為が「事後強盗」として処罰されるのです。

    犯行後の暴力=「強盗」扱いされる理由

    「万引きは終わっていたのだから、強盗じゃないのでは?」と疑問に思うかもしれません。

    しかし法律上は、犯行後でも「利益を確保するための暴力」が加えられた場合は、
    窃盗→強盗に格上げされると判断されることがあります。

    これが、「事後強盗」や「強盗致傷」に変わる決定的なタイミングです。

    ケガをさせてしまえば「致傷」に

    さらに、振り払った結果として相手が転倒し、擦り傷や打撲など

    事後強盗によって相手がケガを負えば、「強盗致傷罪」(無期又は六年以上の拘禁刑)

    命を奪えば「強盗致死罪」(死刑又は無期拘禁刑)と発展します。


    このルートこそが、万引きが重罪化する代表的なパターンです。

    ◆ 実際の事件:182円の万引きが強盗致傷に

    2025年4月、沖縄県糸満市のコンビニで、紙パックジュース(182円)を万引きした78歳の男が、逃走時に店長にけがをさせたとして、強盗致傷容疑で逮捕されました。

    👉 記事はこちら(琉球新報デジタル)

    金額に関係なく、「逃げる際の暴力+けが」で強盗致傷罪が成立します。万引きのつもりでも行動次第で“強盗”扱いとなり、懲役6年以上の重罪に問われる可能性があります。

    さらに注意すべきは、逮捕された時点でニュースとして報じられるリスクです。実名までは出ない場合でも、年齢や職業、地域などが公開されることも多く、社会的信用を大きく損なうおそれがあります。

    起訴率・実刑率が高い罪

    強盗致死傷罪は、起訴されると高確率で有罪になることで知られています。
    また、減刑されない限り執行猶予がつくケースはほぼゼロ

    加えて、こうした重大犯罪は社会的関心も高く、報道されやすいため社会的な信用を大きく失うリスクも伴います。

    故意がなくても成立する

    「傷つけるつもりはなかった」「とっさに逃げただけ」は、基本的に通用しません。
    暴行によって偶然相手がケガをしただけでも、その事実がある以上、“致傷”と認定される可能性が高いのです。

     見られているのは“結果”と“タイミング”

    刑事事件では、「どんなつもりだったか」よりも、
    “何をしたか”と“いつそれをしたか”が重視されます。

    たとえば、

    • 万引きをしようとして商品を隠した

    • 見つかって逃げる途中で店員を振り払った

    • 結果、相手が転倒してケガをした

    このような流れがあれば、万引きから逃げる過程も一連の「犯行」として扱われ、強盗致傷罪が成立するのです。

    「たまたま」「とっさに」は理由にならない

    「とっさに手が出ただけ」
    「そんなに強く押したつもりはない」
    といった供述もよく見られますが、暴行があったこと、傷害が生じたことが事実であれば、法律上は十分に有罪認定の対象です。

    とくに、万引き→逃走→暴行という流れは、検察や裁判所にとっては「犯行の一貫性」を示す証拠になります。

     実際に“懲役10年近く”の判決が出たケースも

    強盗致傷罪が成立した場合、刑罰は無期または6年以上の懲役です。
    執行猶予がつかず、実刑判決になる可能性が極めて高い重罪といえます。

    実際に、

    万引きの逃走時に店員を突き飛ばして転倒させ、被害者が軽傷だったにもかかわらず懲役8年〜10年の実刑判決が下された判例もあります。

    ◆ その他の“強盗系犯罪”にも注意

    最後に、強盗致死傷罪や事後強盗罪以外にも、関連する強盗罪がいくつか存在します。ここでは簡単にご紹介します。

    いずれも「暴行・脅迫+財産目的」という構造が共通しており、非常に重く処罰される犯罪です。

    トラブルになったら弁護士にすぐ相談を

     初動対応で結果が変わることもある

    「たった一度の万引きが、こんな大ごとになるなんて…」
    そう後悔しても、事件が警察に発展した時点で手遅れになることも少なくありません。

    ですが、早い段階で弁護士に相談することで、状況が大きく変わる可能性もあります。

    呼び出されたら「すぐに」弁護士に相談を

    本人でも家族でも、「警察に呼ばれた」「被害届が出された」と聞いた時点で、
    迷わず弁護士に相談してください。

    特に強盗致死傷のような重い罪が疑われる場合、
    早期に弁護士が入ることで、取り調べの方針や供述内容が大きく変わります。

     弁護士ができる具体的なサポート

    1. 供述の整理とアドバイス
       警察の取り調べで不利な発言をしないよう、法的な観点からサポートします。

    2. 早期の被害者対応・示談交渉
       被害者がいる場合、けがの補償や謝罪を通じて示談が成立すれば、不起訴や減刑の可能性もあります。

    3. 少年事件への対応(未成年の場合)
       家庭裁判所への送致や保護観察処分の選択肢を広げるため、家庭や学校との連携も含めた対応が可能です。

    減刑の可能性はあるのか?

    強盗致死傷罪は非常に重い罪ですが、状況や弁護活動によっては、量刑が軽くなる余地もあります。
    たとえば――

    • 初犯であること

    • 自首したこと

    • 被害者と示談が成立したこと

    • 心から反省している様子が認められること

    • 家族の監督体制が整っていること(特に少年事件)

    こうした事情を、弁護士が裁判で丁寧に主張・立証していくことで、
    本来より軽い量刑になったり、執行猶予がつくケースも(まれに)あります。

    放置すると、取り返しがつかない

    逆に、弁護士をつけずに放置してしまうと、調書に不利な内容が記載されたまま起訴されることもあります。
    一度起訴されると、強盗致死傷罪では実刑になる可能性が非常に高く、人生への影響は計り知れません。

     迷ったら、まずは無料相談を活用して

    万引きのつもりが「強盗扱い」にされた、という段階でも、
    まだ間に合うことがあります。

    「警察から連絡がきた」「家族が呼ばれた」
    そんなときは、すぐに弁護士に相談する勇気が、自分や家族の将来を守る第一歩です。

    【窃盗罪】万引きしてしまったらどうしたらいいのか?どんな罪になるのか? 

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