2025/05/31 コラム
転売はなぜ禁止される?せどりとの違い・法律上の問題点と『やってはいけないライン』
人気チケットや限定商品が即完売し、数分後には高額で出品される──そんな光景に「また転売ヤーか」と憤りを感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
一方で、「転売=すべて違法」ではありません。フリマアプリの普及で、誰でも簡単にモノを売れる時代になった今、どんな転売が法律に違反するのか、どこまでが許されるのかを正しく知っておくことが重要です。
この記事では、「転売ヤー」と呼ばれる行為がどのような場面で違法になるのか、せどりとの違いや社会的な批判を受けやすい行為について、弁護士の視点で分かりやすく解説していきます。
【目次】 ┗古物営業法 ┗チケット不正転売禁止法 ┗医薬品医療機器等法(薬機法) ┗酒税法 ┗詐欺罪・窃盗罪 |
「せどり」と「転売」は何が違う?
「転売ヤー」という言葉がSNSやニュースで目立つようになり、転売=悪いこと、というイメージを持つ方も多いかもしれません。ですが、似たように見える「せどり」は、立派な副業として多くの人に利用されています。
では、両者は何が違うのでしょうか?
● せどりとは?
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商品を安く仕入れて、利益を上乗せして売るビジネス
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一般的には新品の商品を扱う
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特別な資格や許可は不要(※新品のみを扱う場合)
要するに、「せどり」は合法な再販ビジネスです。店舗やネットで商品を見つけ、価格差を活用して利益を得る方法で、ルールに従っていれば問題はありません。
● 転売とは?
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人気商品やチケットを買い占め、高額で売りさばく行為
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利益目的で大量購入し、希少性を利用することが多い
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法律に触れるケースもあり、社会問題として批判されやすい
「転売ヤー」と呼ばれる人たちは、商品の買い占めによって本当に必要な人が手に入れられない状況を作り出し、非難を浴びています。
一見似ているようでも、「せどり」と「違法転売」には明確な線引きがあります。「新品を仕入れて売るのはOK」「中古品は許可が必要」など基本ルールを押さえていれば問題ありませんが、少しでも逸脱すれば法律違反に問われる可能性も。
では、実際にどんな行為が法律に違反してしまうのでしょうか?次に、違法となる具体的な転売パターンを6つ紹介します。
違法転売になる主な5つのパターン
① 古物営業法違反(中古品の無許可販売)
中古品を仕入れて販売する場合、「古物商許可」が必要です。
これは盗品の流通防止や取引の透明性確保を目的に、古物営業法で定められているルールです。
たとえば、フリマアプリやオークションサイトを使っていても、中古品を反復・継続して販売する場合は、古物商の許可がなければ違法となる可能性があります。
許可が不要なケース✅(合法)
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自宅で使っていた不要品を処分目的で売る
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一度限りの個人間取引
こうした「自己使用後の処分」や「偶発的な売却」は、原則として古物商の許可は不要です。
許可が必要なケース❌(違法の可能性あり)
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中古品を利益目的で仕入れ、繰り返し販売する場合
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業務として、複数のプラットフォームで販売を行う場合
このように営利目的で中古品を継続的に販売していれば、たとえ個人であっても古物商許可が必要です。無許可営業が発覚すれば、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性もあります。
「たまに出品するだけだから大丈夫」と思っていても、販売頻度や商品数によっては取り締まりの対象になることもあります。中古品販売を副業として考えるなら、まずは許可の有無を確認することが大切です。
② チケット不正転売禁止法違反
コンサートやスポーツイベントのチケットを定価を超える価格で転売する行為は、2019年施行の「チケット不正転売禁止法」により禁止されています。
転売目的で購入したチケットを販売した場合、違反となり、
→ 1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
対象となるのは「特定興行入場券」
この法律で規制されるのは、次のような特徴を持つチケットです。
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転売禁止が明記されている
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日時・場所・座席が指定されている
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購入者の氏名・連絡先の登録が必要
こうした条件をすべて満たすチケットを「特定興行入場券」といい、その転売が法律で禁止されています。
法律違反ではないが「主催者が禁止」しているチケットも
例えば、大阪・関西万博の入場チケットについては、特定興行入場券の要件をすべて満たしていないため、法律上の違法転売には該当しません。ただし、公式サイトでは明確に転売を禁止しており、転売チケットでは入場できないとしています。
つまり、法的には違反ではなくても、主催者のルールに反しており、実際に使用できないリスクがあるという点に注意が必要です。
特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律 | e-Gov 法令検索
③ 医薬品医療機器等法(薬機法)違反
― 医薬品・化粧品の無許可販売は違法 ―
医薬品や化粧品を販売するには、「薬局開設」や「販売業許可」など、所定の資格・許可が必要です。これは、使用者の健康や安全を守るために、薬機法(旧・薬事法)で厳格に規定されています。
無許可で販売すると違法になる商品とは?
次のような商品は、たとえ未使用の正規品であっても、個人が無許可で販売すれば違法となります。
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一般用医薬品(市販薬)
例:風邪薬、痛み止め、目薬など -
医薬部外品
例:育毛剤、制汗剤、薬用せっけんなど -
化粧品
例:美白クリーム、スキンケア用品、ファンデーション -
健康食品・サプリメントの一部
※効能効果をうたう表現をすれば、薬機法違反の対象になることも
違反した場合の罰則
薬機法違反に対しては、以下のような厳しい刑事罰が科される可能性があります。
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3年以下の懲役または300万円以下の罰金
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営利目的の場合、法人に対しても罰金が科されることあり
「不要になったからメルカリで売る」「もらったけど使わないからフリマアプリに出す」といった感覚であっても、許可なく健康関連商品を売れば明確な違法行為です。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 | e-Gov 法令検索
④酒税法違反(酒類の無許可販売)
― ビール・ワインの転売も「免許なし」なら違法 ―
お酒の販売には、たとえ個人であっても「酒類販売業免許」が必要です。これは、国(税務署)が厳しく管理しているもので、許可なく酒類を売る行為は、酒税法に違反する重大な法令違反となります。
対象となる「酒類」とは?
酒税法で定められた「酒類」とは、アルコール度数1%以上の飲料です。🍺
酒税法違反の罰則
無許可で酒類を販売した場合、以下のような刑罰が科される可能性があります。
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1年以下の懲役または50万円以下の罰金
⑤詐欺罪・窃盗罪
転売行為そのものというよりも、商品を手に入れた方法に違法性があるケースです。たとえば、「転売目的の偽名・虚偽住所で購入」「キャンセル前提で大量注文」などは詐欺罪や窃盗罪が成立する可能性があります。
合法でも社会問題化した“転売騒動”
法律には違反していない——それでも「モラル違反だ」として激しく批判され、社会問題に発展する“転売騒動”が近年相次いでいます。以下は、実際に炎上を招いた代表的なケースです。
マスク・消毒液の高額転売(コロナ禍)🦠
新型コロナウイルスが広がり始めた2020年、マスクや消毒液が品薄になる中、一部の転売ヤーがこれらを数倍の価格で販売し大炎上。
当初は法規制がなく「違法ではない」という立場でしたが、強い社会的非難を受け、政府は転売を禁止する緊急措置法を導入しました。
モラルの欠如が法律を動かす事例となったのです。
限定スニーカーやゲーム機の買い占め👟
「PS5」や「限定スニーカー」など、発売と同時に転売ヤーが買い占め、フリマサイトに定価の2〜3倍で出品される現象が常態化。
法的に規制が難しいジャンルですが、消費者の間では「本当に欲しい人が手に入らない」と不満が爆発し、企業が抽選制や販売制限の強化を行うようになりました。
ベビーフードや育児用品の転売👶
乳児用の粉ミルクやおむつ、ベビーカーの転売が問題視されたケースでは、「弱者の生活を犠牲にした金儲け」として批判が集中。
法的な規制対象外でも、SNSでは販売者のアカウントが炎上・停止された事例もあります。
法には触れなくても「常識」に触れる転売もある
転売行為は、法律上は問題ない場合でも、社会の価値観や倫理に反することで強い反発を招くケースがあります。特に、マスクや育児用品のように生活必需品を高額で売る行為は、「買える人だけが得をする」仕組みとして、多くの人の反感を買いやすくなります。
たとえ合法であっても、モラルを欠いた転売は「炎上」やアカウント停止、企業との取引停止といった社会的な制裁を受ける可能性があるのです。
ルールだけでなく、「今、それをやるべきか?」という視点を持つことが、現代の取引では一層重要になっています。
安全な副業として「せどり」を行うためのポイント
せどりは、誰でも比較的手軽に始められる副業ですが、安易に始めてしまうと法的なトラブルにつながるおそれがあります。安心・安全に取り組むために、次のポイントを押さえておきましょう。
新品のみを扱えば基本的に合法
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家電・書籍・日用品など、市場で流通している新品の商品を仕入れて販売するだけなら、原則として違法にはなりません。
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ネットショップやセールで安く購入し、相場の高い場所で販売するという王道スタイルなら、古物商許可も不要です。
中古品を扱う場合は「古物商許可」が必要
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リサイクルショップやフリマアプリなどで中古品を仕入れて販売する場合は、「古物営業法」に基づいて古物商許可証の取得が必要になります。
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継続的に販売していれば「業」とみなされ、無許可営業には3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性もあります。
禁止されているジャンルには手を出さない❌
以下のような商品は、法律上、個人が販売するには制限があります。副業で扱うのは避けましょう。
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チケット(ライブやスポーツイベントなど)
┗ 転売目的・定価超えは「チケット不正転売禁止法」に違反 -
医薬品・サプリ・化粧品
┗ 無許可販売は「薬機法」違反に該当 -
お酒類(ビール・ワインなど)
┗ 「酒類販売免許」がなければ販売不可。1回でも反復性があれば違法となるケースあり
安全に継続するためのチェックリスト✅
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扱う商品は新品のみ
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中古品なら古物商許可を取得
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チケット・医薬品・酒類などは対象外
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“お小遣い稼ぎ”感覚ではなく、ルールを理解したうえで行動
せどりは、しっかりと法的ルールを守れば、安全で継続可能な副業になります。
トラブルを防ぐためにも、「知らなかった」では済まされない法律の知識を身につけることが、長く続けるコツです。
「副業で稼ぐ」から「副業で守る」視点も大切に。正しい情報と備えを持って、安心・安全なせどりライフを始めましょう。
転売は「違法でなければOK」ではない。
転売は、法に触れなければ何をしてもよい——そんな考えは、もはや通用しません。
特に、以下のようなケースでは強い批判を受ける可能性があります。
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災害時の生活必需品の高額転売
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パンデミック時のマスク・消毒液の買い占め
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子育て世代向け商品の独占・転売
これらは、「人の困りごとに乗じた利益目的」とみなされやすく、たとえ法律違反ではなくても、
・SNSでの炎上
・アカウント停止
・企業や自治体からの取引制限
といった“社会的制裁”につながるおそれがあります。
今の時代、転売に求められるのは、「法律の遵守」と「モラルの配慮」の両立。
安心して副業を続けるためにも、「売れるからやる」ではなく、「それをやって誰がどう思うか」にも目を向ける姿勢が大切です。
当事務所では、刑事事件に関する法律相談を受け付けております。お気軽にお電話またはLINEにてお問い合わせください。