コラム

2025/10/07 コラム

【違法ダウンロード注意】トレント利用者に届く開示請求と示談金ビジネス、その手口と対処法

 

突然弁護士から意見照会書が届き、その後「今払えば裁判にしない」と数十万円を求められる――このようなトレント利用者を狙った「示談金ビジネス」が目立っています。

  • トレントの場合は「ダウンロードと同時にアップロード」されるので、著作権で守られた作品を自分も無断配布してしまう=著作権侵害 になる可能性が高いです。

【示談請求自体は正当】

  • 著作権者(会社)が、自分の権利を守るために損害賠償や示談を求めることは法律上認められているので「示談請求=詐欺」というわけではありません。

  • 実際に裁判を起こして損害賠償を請求するケースもあります。

【示談金ビジネスと言われる理由】

ただし、

  • 請求額が一律で高額(数十万円〜100万円以上)

  • 裁判で認められる額よりもはるかに大きい

  • 大量の人にテンプレート文で送っている

つまり「権利保護」よりも「お金回収ビジネス」の色が濃い場合が多いのです。

 

トレント利用で「開示請求」が届くのはなぜ?

「ただダウンロードしただけなのに、なぜ開示請求が届くの?」
実際に通知を受け取った人の多くが、まずこう感じます。ここではトレントの仕組みと、開示請求に至る流れを整理してみましょう。

トレントの仕組みと著作権侵害のリスク

トレント(BitTorrentなど)はP2P方式のファイル共有ソフトです。
サーバーから直接ではなく、利用者同士で断片的にデータを交換します。

  • 特徴:ダウンロードと同時にアップロードも行われます。

  • 違法ファイルを入手すると、自動的に他人へ配布してしまいます。

  • これは無断アップロード=著作権侵害に当たり、示談や賠償の対象です。

    対象は映画・ドラマ・アニメ・音楽・AVなど幅広く、
    権利者は監視システムを使い利用者を特定しています。

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    一方で、トレントは合法的にも使えます。

    • LinuxなどオープンソースOSの公式配布

    • 著作権フリー作品やクリエイターの自主公開

    • ゲーム会社によるアップデートやパッチ配布

      このように、正しい利用なら便利で安全に活用できます。
      大切なのは「配布元が正規かどうか」を確認することです。

      トレント利用による損害賠償請求までの流れ

      著作権者が損害賠償を求めるまでのプロセスは以下のように進みます。

      ステップ1:著作権者による監視とIPアドレスの特定

      • 権利者や委託業者がトレント監視ツールを用い、違法配信のログを収集。

      • 作品名・日時・IPアドレス・ポート番号などが記録されます。

      ステップ2:発信者情報開示請求(プロバイダへ)

      • 著作権者は「このIPアドレスを使っていたのは誰か」を突き止めるため、プロバイダに発信者情報開示請求を行います。

      • プロバイダは「プロバイダ責任制限法」に基づき、契約者へ意見照会書を送付されます。

      ステップ3:意見照会書の送付と回答

      • 契約者は通常2週間以内に「開示に同意するか否か」を回答を求められます。

        • 同意した場合:情報が開示されます。STEP5へ

        • 拒否した場合:STEP4へ進みます。

        • 無視した場合:回答なしと見なされ、開示に同意した扱いとなることもあります。

      ステップ4:発信者情報開示訴訟(拒否された場合)

      • プロバイダが開示を拒んだ場合、著作権者は裁判所に訴訟を提起。

      • 裁判所が開示を認めれば、契約者情報が渡ります。

      ステップ5:損害賠償請求・示談交渉

      • AVメーカーなどの著作権者や代理人弁護士から請求書や示談提案が届きます。

      • 請求額は作品数や悪質性によって異なり、40万〜150万円程度が多いです。

      • 示談に応じれば裁判は回避可能だが、拒否すれば民事訴訟に発展することも。

      ステップ6:民事訴訟・刑事手続きの可能性も

      • 民事訴訟では支払い命令が下される可能性があります。

      • 悪質なケースでは刑事告訴で10年以下の懲役または1000万円以下罰金が科せられる可能性もあります。

      【民事裁判で実際に認められた金額】

      実際に裁判になった事例もありますが、請求額との違いが明らかです。

      高額示談金ビジネスの実態

      AV会社からの一律請求が多い

      権利者は、裁判所を通じた発信者情報開示の手続を用いて、IPアドレスから契約者情報を特定します。
      その結果、プロバイダから契約者に「意見照会書」が送られ、同意の有無や事実関係の確認が求められます。
      この流れは文面の定型化と相性が良く、同種の通知が多数一斉に送られる傾向があります。
      受け取る側は突然の通知に驚き、心理的に不利な状況に置かれやすい点が特徴です。

      とりわけ家族や勤務先に知られずに解決したいという不安が強く働き、短い回答期限や強い表現が判断を急がせます。

      こうした「大量送付×心理的圧力」の構図が、一律請求を後押ししていると言えます。

      実際に2025年8月の朝日新聞デジタル記事でも、2024年度に知財部へ申し立てられた発信者情報開示命令は2,454件に上り、その大半はビットトレント利用による著作権侵害を主張する事案だったと報じられています
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      「今払えば裁判にしない」と迫る典型的手口

      請求書やメールで「いま示談すれば裁判にしない」「支払期限を過ぎると法的措置」などの強い文言が示されることがあります。
      家族や勤務先に知られたくないという不安につけ込み、短い期限での即断を迫るのが典型です。
      金額・対象作品・請求根拠・将来の清算の範囲など、合意前に精査すべき要素が多いにもかかわらず、十分な説明がないケースも見受けられます。

      請求額が数十万〜100万円以上に及ぶケース

      本来、損害額は侵害の態様や作品数などの事情で変動します。
      しかし、実務上は数十万円〜100万円以上の高額な提示がなされる例もあります。
      作品数、配布(アップロード)の有無・期間、同種行為の繰り返しの有無、謝罪・削除などの対応状況が、金額交渉の材料になります。
      相場と比較して過大であるか、計算根拠が妥当かを冷静に見極めることが重要です。

      開示請求を受けたときの対処法

      開示請求が届いたら、まず証拠を保全してアップロード(配布)を止めましょう。

      1)画面や設定をスクショ保存(証拠保全)

      通知書・封筒(消印)・メールヘッダ、トレントクライアントのタスク一覧・設定画面・速度表示、停止した日時が分かる画面などを連続で撮影します。可能なら端末一覧・ルータ設定(UPnP/ポート)も1枚ずつ。
      ※保全前に削除すると、事実説明が難しくなります。

      2)すべて一時停止→終了

      クライアントの「一時停止/すべて停止」で速度表示を0にし、常駐も含めて完全終了します。しばらく様子を見て、Peers(接続数)や速度が動かないことを確認してください。ここまでで再配布の遮断が完了です。

      3)自動起動OFF

      アプリ設定の「起動時に自動開始」をOFF、OS側(Windowsスタートアップ/macOSログイン項目)も念のため無効化します。

      この3手順を行った時刻をメモしておくと、「いつ止めたか」を説明できます。請求側が主張する期間を短くできる重要な手がかりになります。

      早い段階で弁護士に相談を

      結論から言うと、初動の設計で結果が大きく変わります。
      開示請求は短い期限で判断や回答を迫られ、やり取りの一言一句が後の交渉や訴訟に影響します。弁護士に早めに相談する狙いは、単なる「代行」ではなく、証拠と主張の“土台づくり”を最初に固めることにあります。

      なぜ「今」相談するのか

      • ① 期限と文面のコントロール
        その場しのぎの返答や曖昧な表現は、後に不利な前提として固定されます。弁護士は、期限内に、余計な自白を避けつつ、必要な開示を相手に求める初動返信を組み立てます。

      • ② 事実認定と証拠の突き合わせ
        対象作品・取得方法・配布立証・金額算定を項目ごとに点検し、「どこが弱いか」を明確にします。ここで特定した弱点は、その後の交渉カードになります。

      • ③ ゴールは「最終清算」
        単なる減額で終わらせず、清算条項(将来の追加請求を断つ)や秘密保持を入れて「本当に終わる合意」を目指します。複数社からの連鎖が見込まれる場合は、一括で終わらせる条件に組み替えます。

      相談で具体的に進めること

      • 請求書と手元資料の整合性チェック

      • 相手に求める根拠開示の依頼文初動返信の作成

      • 清算条項・秘密保持・支払方法など合意条項の草案づくり

      この順番で“戦い方”を先に決めてから、交渉に入ります。

      示談金大幅減額につながる「弱点」の見つけ方

      弁護士に相談する最大の意味は、相手の主張の弱点を交渉材料に変換できる点です。例えば——

      • 事実が違う、または証拠に食い違いがあるとき。

      • 配布したという証拠が弱く、「見ただけ」の可能性が高いとき。

      • 家族など別の人が使った疑いがある、または端末管理に不備があるとき。

      • 作品数や計算方法の根拠が弱い、または同じ行為を二重に数えているとき。

        これらは支払不要(0円)や大幅減額の論点になり得ます。つまり、早い段階で相談するほど、こうした弱点を初動から組み込めるため、結果に直結します。

        もっとも、最終的な結論は請求内容・証拠の精度・交渉運びで変わるため、過度な期待は禁物ですが、検討する価値は十分にあります。

        相談前に揃えると早く正確に進むもの

        通知書と封筒(消印)、メールヘッダ、対象ファイルや取得画面のスクショ、停止した日時のメモ、利用端末・設定の概要。これだけで初期判断の精度とスピードが上がります。

        要するに:
        早期相談の目的は、弱点の特定 → 初動返信 → 根拠開示 → 最終清算という道筋を最初から敷くことです。ここが整うと、過大請求や連鎖請求を合理的に止める可能性が高まります。

        避けたいNG

        • 保全前の削除や初期化:説明不能・心証悪化につながります。

        • とりあえず少額を振込:最終清算にならず、後の追加請求の口実に。

        • SNSでの発信:交渉をこじらせ、別のトラブルを招きます。


        支払いを急ぐ必要はありません。「1)保全 → 2)停止 → 3)自動起動OFF」で土台を整え、根拠の開示を求めつつ、金額算定と清算条項を含む交渉を設計しましょう。これが、過大請求や連鎖請求を防ぐ近道です。

        よくある質問(FAQ)

        Q. トレントで違法ダウンロードしたら開示請求はいつ届く?

        A. 発信者情報開示請求は、違法利用から数か月後に届くことが多いです。

        Q. 開示請求が届いたら逮捕される可能性はある?

        A. すぐに逮捕されるわけではなく、まず民事請求や示談交渉が中心です。

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        Q. 開示請求は家族や職場に知られるの?

        A. 通知は契約者宛に郵送されるため、家族に知られる可能性は高いです。

        Q. トレント示談金は分割払いできる?

        A. 一括払いが基本ですが、相手の同意があれば分割も可能です。

        Q. 違法ファイルを「見ただけ」でも違法?

        A. ダウンロードやアップロードが伴えば著作権法違反です。

        Q. 海外サイトからDLした場合も違法?

        A. 日本国内から利用した時点で、日本法の適用対象になります。

        Q. 請求相手に直接連絡して交渉していい?

        A. 不利な発言を残されるリスクが高いため避けるべきです。

        Q. 弁護士に依頼せずトレント請求に対応できる?

        A. 可能ですが、不利な示談や高額請求を避けるには専門家が有効です。

        Q. 弁護士に相談した内容は家族や職場に知られる?

        A. 弁護士には守秘義務があり、依頼内容が外部に漏れることはありません。

        当事務所では、初回相談無料で法律相談を受け付けております。

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        この記事の執筆者

        須賀 翔紀(弁護士)の写真

        須賀 翔紀(弁護士)

        須賀事務所 代表弁護士。刑事弁護・犯罪被害者支援を専門とし、これまでに500件以上を担当。

        監修

        須賀法律事務所

        初出掲載:2025年10月7日
        最終更新日:2025年10月7日

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