2025/02/12 コラム
私人逮捕って何?一般人でも逮捕できる法律の仕組みと注意点を解説します!
日常生活の中で「逮捕」という言葉を耳にすることはあっても、実際にどういった仕組みで行われるのか、詳しく知っている人は多くありません。多くの方は「逮捕は警察だけができるもの」と思いがちですが、実は日本の法律では、一定の条件を満たせば一般の人でも逮捕を行うことができます。これを「私人逮捕」と呼び、万引きや暴行などの現行犯に出くわした際に認められる場合があるのです。
ただし、私人逮捕はすべてのケースで自由にできるわけではなく、法律に定められたルールを守らなければなりません。誤った判断で行えば、逆に自分がトラブルや責任を負うことにもなりかねないため注意が必要です。 この記事では、私人逮捕が認められるケースと認められないケース、さらに実際に行う際の流れについてわかりやすく解説していきます。
私人逮捕とは?
まず、「私人逮捕」とは、警察官以外の一般市民(私人)が犯罪を犯した者を逮捕することを指します。通常、逮捕は警察の仕事と考えられがちですが、法律上、犯罪が発生した直後であれば、誰でもその場で犯人を逮捕する権利を持っているのです。
ただし、私人逮捕が認められるのはあくまで現行犯など限られた状況においてのみです。誤って要件を満たさない場面で行ってしまうと、不当な拘束とみなされ、自身が逮捕監禁罪などに問われる可能性もあります。そのため、どのような場合に許されるのか、具体的な基準を理解しておくことが大切です。
私人逮捕と正当防衛の違いとは?
私人逮捕と正当防衛は、どちらも相手に対する実力行使が法的に正当化される制度ですが、その趣旨と内容には明確な違いがあります。
まず目的が異なります。私人逮捕は犯人の逃走を防ぎ身体を拘束することが目的であるのに対し、正当防衛は差し迫った犯罪被害から自己や他人の身を守るための防衛行為です。また対象範囲にも違いがあります。私人逮捕は現行犯、つまり犯行中または犯行直後の者を対象とするのに対し、正当防衛はあくまで現在進行形で攻撃している者に限られ、すでに攻撃が終わった者には適用されません。
さらに許される行為の範囲や程度にも違いがあります。私人逮捕では逃走阻止のための身体拘束が限度となりますが、正当防衛では相手の攻撃と均衡する程度の反撃が認められます。ただし、「やられたらやり返していい」という単純なものではなく、いずれも厳格な要件を満たした場合に限って認められる例外的な措置であることを理解しておく必要があります。
私人逮捕ができるケース
私人逮捕を行うためには、犯人が現行犯であることが必要です。現行犯とは、「犯罪が行われている最中」または「直後」の人物を指します。例えば、万引きや暴力事件を目撃した場合、その犯人を現場で取り押さえることができます。
ただし、現行犯であれば必ず私人逮捕ができるわけではなく、状況や方法を誤ると違法行為と判断される可能性があります。力任せに拘束したり、長時間にわたって独自に留め置くことは認められていません。取り押さえた場合には、速やかに警察へ引き渡すことが法律上求められているのです。
私人逮捕の条件
では、どんなケースで私人逮捕が認められるのでしょうか?具体的な条件を以下にまとめます。
- 犯罪が現行犯であること
犯人が犯罪を犯した直後に、目撃者(私人)がその場で逮捕することができます。例えば、強盗を目撃してすぐに犯人を追い詰めるなどです。 - 過剰な力を使わないこと
逮捕の際には過剰な暴力を使ってはならず、相手を傷つけることなく取り押さえる必要があります。警察に引き渡すための手段として最小限の力で行動することが求められます。 - 警察への迅速な引き渡し
私人逮捕を行った場合、その後はできるだけ早く警察に犯人を引き渡さなければなりません。私人逮捕を行った後に、長時間犯人を拘束することは違法になります。
私人逮捕が認められるケースを具体的に解説
前述のとおり、私人逮捕は現行犯逮捕の場合のみ認められる制度であり、「現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者」に対してのみ行うことができます。ここでは、実際に私人逮捕が認められる可能性の高い具体的なケースについて解説します。
ただし、私人逮捕を行う際は、犯罪があったことと、その人が犯人であることの2つが明白である必要があり、さらに逮捕の必要性として罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれが一定以上あることも求められます。安易な私人逮捕は逮捕罪や暴行罪等の犯罪に該当する可能性があるため、十分な注意が必要です。
盗撮犯を見つけその現場を押さえたケース
電車や駅のホーム、トイレなどにおける性的な部位や下着、わいせつな行為の姿などをひそかに撮影する盗撮行為は、性的姿態等撮影罪に該当・盗撮行為の最中または直後(カメラをしまう等)は「現行犯」に当たります。そのため、その場で取り押さえれば私人逮捕として認められる可能性があります。
ただし、実際には、盗撮事案で警察が現場で必ずしも身柄拘束(逮捕)するとは限らず、その場で事情聴取→後日書類送検となることもあります。これは逃亡や証拠隠滅のおそれが限定的と判断される場合が多いためです。したがって、現行犯であることが明白であっても、まず自身や周囲の安全を最優先し、その場で加害者に直接働きかけるのではなく、速やかに警察へ通報することが推奨されます。
トラブルや二次被害防止のため、本人が直接取り押さえる行動はできるだけ控え、証拠となる状況の記録(日時・場所・特徴など)を落ち着いて警察に伝えることが重要です。
万引き犯を見つけその現場を押さえたケース
店舗における万引き行為は窃盗罪に当たり、万引き犯が商品をバッグやポケットに入れた時点で窃盗罪が既遂になると解されています。また店舗の商品をバッグやポケットに入れた万引き犯や、万引きを終えて店舗から出たばかりの万引き犯は現行犯人に当たるため、その場で取り押さえれば私人逮捕として認められます。
しかし、万引き事案についても多くの捜査機関が逮捕まではしないことが多く、これは逮捕の必要性として罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれが一定以上あることが求められるためです。店舗従業員による万引き犯の取り押さえは一般的に行われていますが、一般市民が行う場合は慎重な判断が必要となるでしょう。確実な証拠がない状態での拘束は違法行為となるリスクがあるため要注意です。
他人を殴っている人をその場で制圧したケース
他人を殴る行為は、被害者にケガがなければ暴行罪、被害者がケガをした場合は傷害罪に該当します。他人を殴っている人や、他人を殴った後立ち去ろうとしている人は現行犯人に当たるため、その場で取り押さえれば私人逮捕として認められます。
この場合、被害者を守るという正当防衛的な要素もあり、比較的逮捕の必要性が認められやすいケースと考えられます。ただし、すでに暴行が終了している場合は、正当防衛ではなく私人逮捕の範囲内での対応となります。過度な実力行使は逮捕罪や暴行罪に該当する可能性があるため、犯人が逃走しないよう身体を拘束する程度にとどめる必要があります。何より安全を最優先とし、可能な限り警察への通報を行うことが重要です。
私人逮捕が認められないケースを具体的に解説
私人逮捕は現行犯逮捕の場合のみに認められる制度ですが、最近では私人逮捕系YouTuberなどが「私人逮捕」と称して、適法な要件を満たさない拘束を行う事案が相次いで報道されています。
このような違法な私人逮捕を行った場合、逮捕罪や暴行罪・傷害罪によって処罰される可能性があるほか、相手に対して治療費や慰謝料などの損害賠償義務を負うリスクがあります。私人逮捕の要件を正しく理解せずに安易に逮捕行為を行うことは極めて危険であり、民事・刑事上の責任を負うおそれがあります。 以下では、私人逮捕が認められない具体的なケースについて詳しく解説し、違法な私人逮捕を防ぐための知識を提供します。
覚せい剤を持っている疑いがあるケース
覚せい剤の所持は原則として覚醒剤取締法違反に当たりますが、私人逮捕ができるのは現行犯人である場合に限られます。繰り返しにはなりますが、現行犯人とは「現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者」であり、犯罪があったことと、その人が犯人であることの2つが明白である必要があります。
覚せい剤を所持しているのを実際に見たわけではないのに、その疑いがあるというだけで呼び止めて拘束した場合は明らかに違法となります。単なる疑いや推測に基づく拘束は現行犯逮捕の要件を満たさず、逮捕罪に該当する可能性が高いです。
このような場合は、まず警察に通報し、専門的な捜査に委ねることが適切な対応です。一般市民が薬物犯罪の疑いで他人を拘束することには法的根拠がありません。
指名手配犯を見つけたケース
指名手配犯は過去に罪を犯した可能性が高いと考えられますが、今まさに罪を犯している、または今犯行が終わった者ではありません。つまり、過去の犯罪による指名手配犯は現行犯の要件を満たしません。したがって、指名手配犯の現行犯逮捕は認められないため、私人逮捕も違法となります。
指名手配犯を発見した場合は、直ちに警察に通報することが正しい対応です。通常逮捕や緊急逮捕は司法警察職員・検察官・検察事務官のみが行うことができる権限であり、一般市民には認められていません。安易に取り押さえようとすると、逮捕罪や暴行罪に問われるリスクがあります。
逮捕の必要性がないケース
私人逮捕系YouTuberが逮捕を強行した多くの事案は、逮捕の必要性を欠いているものが多く見られます。現行犯であっても、逮捕の必要性として罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれが一定以上あることが求められます。
YouTuberのように収益目的で逮捕を濫用する存在が現れると、刑事訴訟法の原則論に立ち返る必要があります。例えば、軽微犯罪については、犯人の住居や氏名が明らかでない場合、または犯人が逃亡するおそれがある場合でなければ私人逮捕が認められません。
身分を明かしている人を拘束する場合や、逃亡のおそれがない場合の私人逮捕は違法となる可能性が高いです。現行犯逮捕をするタイミングでは詳細な検討よりも拘束が優先されがちですが、適法性を十分に検討することが不可欠です。
私人逮捕を行う際の流れ
私人逮捕は法的に認められた制度ですが、実際に行う場合は適切な手続きに従って進める必要があります。私人逮捕は現行犯人を目の前にしているという緊急的な状況において例外的に認められるものであり、適法であるといってもその状態はイレギュラーだといえます。
誤った手続きを行った場合、たとえ最初の逮捕が適法であっても、その後の行為が逮捕監禁罪や暴行罪・傷害罪に該当する可能性があります。私人逮捕は市民生活の平穏を維持するために認められた例外的な制度であり、「相手は犯罪者だから何をやってもいい」などと安易に考えてはいけません。
ここでは、私人逮捕を行う際の具体的な方法と、逮捕後に必要な手順について詳しく解説します。
逮捕の方法
私人逮捕における逮捕とは、犯人が逃走しないように身体を拘束する手続きです。逮捕の方法自体は法律上定められた手順があるわけではなく、その場の状況に応じて臨機応変に対応することが求められます。逮捕に着手する際の最も重要なポイントは、犯人の逃走を防止するための最小限の実力行使にとどめることです。
一般市民にとって私人逮捕の機会は一生に1度あるかないかという珍しいものであり、眼の前で犯罪行為が行われるとカッと頭に血が上ることもありえます。しかし、相手に過剰な暴行を加えるようなことはあってはなりません。殴る蹴るといった強度の暴力行為は逮捕の範囲を逸脱するとして暴行罪や傷害罪が成立する可能性があります。
相手が抵抗しない場合は腕をつかむ程度でも十分逃走を防止できますので、逆にこちらに犯罪が成立することのないよう冷静に対応しなければなりません。
逮捕後の手順
私人逮捕を行った場合、刑事訴訟法第214条(刑事訴訟法 | e-Gov 法令検索)により、速やかに犯人を検察官又は警察官に引き渡さなければなりません。この「速やかに」という要件は厳格であり、私人逮捕が適法であるといっても、そのような変則的な状態がいつまでも継続しないよう、緊急性が解消し次第直ちに犯人を捜査機関に引き渡す必要があります。
具体的な手順としては、まず110番通報を行い、警察の指示に従って行動することが最も確実な方法です。私人には一度逮捕した犯人を釈放する権限は認められておらず、正当な理由なく長時間拘束を続けると逮捕監禁罪に問われる可能性があります。
また、逮捕後に勝手にその場で事情聴取したり、被害弁償の交渉をしたりする私的な取り調べは避けなければなりません。警察官への引き渡しの際、逮捕者の氏名や住所、逮捕の状況について聴取されることがあり、必要に応じて警察署への同行を求められる場合もあります。その後は通常の刑事手続きに従って処理されることになります。
私人逮捕の注意点
私人逮捕を行う際にはいくつか注意すべきポイントがあります。これらを理解しておかないと、自分自身が犯罪者扱いされる可能性もあります。
- 過剰な暴力はNG
逮捕の際に暴力をふるうと、逆に暴行罪として逮捕されるリスクがあります。犯人を取り押さえる際には、あくまで必要最小限の力を使うようにしましょう。 - 逮捕後はすぐに警察に通報
私人逮捕を行ったら、その場で警察に通報し、速やかに引き渡す必要があります。警察が到着するまで犯人を拘束し続けることは、違法に長時間拘束することになりかねません。 - 誤認逮捕に注意
逮捕する人物が本当に犯人かどうかを十分に確認することも重要です。間違って無実の人を逮捕してしまった場合、名誉毀損や人権侵害にあたる可能性があります。
私人逮捕に関するご相談は須賀法律事務所へ
私人逮捕をめぐる問題は、適法性の判断が難しく、一歩間違えば逮捕監禁罪や暴行罪に問われるリスクを伴います。また、私人逮捕を行った場合や逆に違法な私人逮捕を受けた場合など、刑事事件に発展する可能性が高い分野でもあります。
須賀法律事務所は、刑事事件に特化した法律事務所として、私人逮捕に関する法的問題に豊富な経験と専門知識を有しています。身柄拘束前の予防的相談から、実際に事件に巻き込まれた場合の迅速な対応まで、オンラインチャットやお電話でのご相談体制を整えております。
刑事事件は時間との勝負であり、早期の適切な対応が事件の行方を大きく左右します。私人逮捕の適法性に疑問がある場合や、関連する刑事事件でお困りの際は、一人で悩まず専門家にお任せください。
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